TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 牌鬼師(ザ・パイオニア)

鳴島生 朝日ソノラマ 1974
全2巻

 


┃あらすじ
高校三年生の北山清一は雀キチの祖母と二人暮し。父は清一が生まれたときに亡くなり、母はそのしばらく後に清一を残して出奔した。ある日、清一は電車の中で貧血を起こして倒れたところを東田徹という着物ダンディに介抱される。清一が落とした麻雀練習単語カードを見た東田は清一を茶室に誘った。東田の茶室はなんと新宿のど真ん中にある不動産会社のビルの最上階。東田は東田不動産の社長だったのだ。東田の茶室はボタンひとつで麻雀ルームに早変わり! 実は東田は希代の雀豪。東田が亡父のことを知っていると聞かされた清一は、東田に弟子入りを志願する。弟子入りの条件はふたつ。西北大学に合格することと、東田のもとへ毎日通うこと。かくて清一の牌鬼師修行は始まった。




初期の麻雀劇画。
ドライな劇画の雰囲気を持った、かなり上質の作品。これ、本当に鳴島生のソロ作品なのだろうか? 本当に原作がついていなかったのであれば、鳴島生は原作をつけずソロで描いたほうがはるかに上手い漫画家ということになる。




話はドライに淡々と進み、辛口。
東田のもとには、清一のほかに日本舞踊の師匠・南みどり、会社員の西川という麻雀打ちが訪れる。東田はもちろん、みどりも西川も、冷徹な勝負師。仲間だろうが容赦はせず、金に汚い。そして清一もまた彼等と交わるうち、牌鬼師となってゆく。印象としては来賀友志+甲良幹二郎『麻雀蜃気楼』*1が近いか。大仰な表現や過剰な演出がないところが良い。初期の麻雀劇画では最高レベル、また、劇画としても非常にレベルが高い。
ただ、みどりが清一の夢のなかに出てくる母に似ている、という前振りがなかったことにされているのはすごすぎ。あと、清一の父ちゃんの処遇もすごすぎ。



骰子何霊 権在闘者
サイコロはただ無心 闘う人が鬼になるのだ

という詩?がところどころに入っている。はじめは意味がわからないが、段々とこの言葉の意味がわかってくる。清一(ニックネームはチンイツちゃん)の目つきはときどきハンパなく恐い*2。鳴島生の画力の問題なのかもしれないが、あの目つき、本物の狂気を感じる。この目つきがラストシーンに一層の迫力を持たせている。
↓目つきが恐い清一
 

↓ニックネームはチンイツちゃん




闘牌に凝りまくったものはないが、麻雀の持つ荒涼としたイメージがうまく具現化できている。特に、学生名人の外山と対決するエピソードで外山が最後に見せるアガリと、それを見て清一が自分の至らなさを悟る場面がうまい。
私は、漫画は伝えたいことを言葉で説明してしまったら終わりだと考えている。過剰な言葉は控え、演出で表すべきだ。その好例として『ノーマーク爆牌党』を挙げたい(書いてなさすぎで意味がわかりづらすぎるところもあるが)。この作品では、なぜ清一が外山に負けを認めたのかが言葉で書かれているわけではない。それは麻雀で表されている。その理由はちょっと読めば誰にでもすぐにわかることなのだが、それをわざと言葉で書かずにおかれているのがよかった。余韻が残り、また、それを声に出さなかった清一の成長を感じ取ることができる。

しかし、国士無双は配牌時にヤオチュー牌が8枚のときが最もあがりやすいというのはさすがに嘘だと思う。9枚、10枚のときよりも8枚のときのほうが和了率が高いとか。しかも根拠が「月刊近代麻雀三月号より」とか、知らんがな。試行回数?が20回というのが泣かせる。




演出としておもしろいと思ったのは、西川が接待麻雀に挑むエピソード。実は、取引先もまたプロ雀士。西川の「仕込み」を看破し、意図的に手を崩して打ってくる。西川は相手を納得・満足させる「仕込み」を作らねばならない。いよいよというとき、ふと手にした東田からの差し入れのタバコに、彼からのヒントが書かれていた。タバコが燃えていくにしたがって進行していく取り引き相手の手牌、このタバコがもみ消されるときには……?





鳴島生は横山プロ出身らしい。横山ってのはオットセイのほうじゃなくて三国志のほう。
ここによると、鳴島生は2006年に亡くなっているとのこと。リンク先は『プラモ狂四郎』のまんが家さんのブログ。鳴島生の臨時アシスタントをしたときのことが書かれている。




おまけ
実践的麻雀レッスン〜これでキミも牌鬼師(パイオニア)編〜

その1 ハコった時は箱をかぶって姿勢を正せ! 豊臣にはならねえぜ!

ハコテンになったバアちゃんの代走。なぜ点棒入れをかぶるのかは不明だ!

その2 通学中も麻雀修行! 麻雀単語帳で牌効率を勉強だ!
清一は通学中も単語帳に書いた「何を切る?」で牌効率を勉強している。受験生なら他にやることがあろうが!!

その2 手袋をして盲牌できるようになれ!
清一は東田からの指導で、手袋をしていても盲牌できるように修行する。手袋をしていても盲牌できるとなると、鷲巣麻雀が成立しなくなるような……。

その3 伊豆に麻雀合宿へ! "ジャン・カー"でGO!

DRIVING ALL NIGHT TOGETHER 醒めちまったこの街に 熱いのは俺たちのDRIVING。"雀ピング・カー"という名前でもよいと思う。ちなみに東田は、利休の短歌が書かれた掛け軸の裏に隠されたスイッチを押すと麻雀ルームに変形する茶室に住んで?いる。このおっちゃん、ナウいで〜。

その4 シールを使ってイカサマだ! 元禄積みは綺麗でシールは汚いとは言わせない!



イカサマは汚いんだよ……どんなトリックでも……

その5 スワッピング麻雀! 万点棒は人間だ!




すみません、さすがにこのシーンは意味がわからなすぎて困りました。

その6 漢なら麻雀で語り合え! 牌メッセージ(ポケベル風)!

返事ももちろん牌メッセージで。

その7 走り込みで体力をつけろ! 麻雀ばかりが麻雀じゃない!
西北大学麻雀部は活動の一環として走り込みを行っている。麻雀が強くなるためには麻雀ばかりしていてはならない。これは来賀イズムにも言えることである。しかし、部員のなかにはこのような外山の方針に反感を抱く者も……。

その8 放任堂謹製! 水中麻雀セット!

レジャー用"全天候"麻雀牌。風圧や水圧に負けないよう磯石を中に使い、また、うす暗い場所でも牌面が見やすいように特殊蛍光インクを使用してるんです(広報マン・談)。で、酸素は?

その9 牌はどこに!? イカサマの正体を見抜け!



原先生ファンなら出て来た瞬間わかっちまうぜ!


個人的には、「パイなれ」とか「今晩あたりちょっとツモらないか」とか、「(八百長をしろと言われて)でもマージャンには運がありますから」「そこをなんとか……」とかいう台詞も気に入った。主人公が悦子という恋人に同棲の約束を破られ、「悦子、ノーテン約束(リーチ)」とつぶやくなど、台詞の端々が光る。いまハヤリの同棲をするんです!って言ってるが、明らかに上村一夫の漫画の読みす……
あとは鉄板焼きの店「ヒゲ」の店長が本当にヒゲだとか、東田は小島武夫と友達だとか、神学生なので平和主義=平和(ピンフ)のみ1000点であがりマースという場面もナイス。もっとも、その神学生はそのあとまったく平和じゃないアガリをしていたが。三味線というやつですね。

*1:どうでもいいことですが、『麻雀蜃気楼』に登場する雀荘「ともえ」は実在のお店がモデルになっているそうです。マスターはやはり熊髭系なのでしょうか。

*2:清一のババアも同じ目つきをしている