TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 麻雀番外地

北山茂樹 桃園書房 1977
全1巻


┃あらすじ
ある企業で研究職についていた大里竜太郎のもとに、証券会社に勤めていた兄が自殺したとの連絡が入った。兄はイカサマ麻雀に嵌って客の証券を無断で売り飛ばし、ついに借金に首が回らなくなって自殺したのだった。兄を嵌めたいかさま師に復讐を決意した竜太郎は血の滲むような麻雀修行に励む。竜太郎は既存のイカサマ技では足りない、前人未踏のイカサマ技を習得しなくてはと考えていた。そのとき、目の前に落ちたいかづちに竜太郎は何かをひらめく。数十日後……そこには、兄の遺影に線香を上げて復讐を誓う竜太郎……もとい雀士「鬼面竜」がいた……。(「磁石返し鬼面竜」より)




本格痛快科学麻雀劇画。
なんとイカサマのトリックがバードと同じ!




いかにも大昔のイカサマ主体の麻雀漫画だが、イカサマのネタがおもしろい。
化学系?(←と書きましたが詳細コメント欄参照)の会社の研究員だった竜太郎は、その才能を活かし前人未踏のイカサマ技を開発する。
そのイカサマ技とは「磁石返し」。
ごく薄い手袋に電流を流して磁場を発生させ、金属粉をつけた牌を引き寄せるというもの。ネクタイの竜の刺繍がスイッチになっており、脇の締め具合で電流を調節して磁力を自在に調整できる。

どういう仕組みになっているか全くわからんがすごい! 青山広美『バード 砂漠の勝負師』に登場するイカサマ師「蛇」は自ら指を切り落とし、外科手術で指のなかに強力な磁石を仕込んで自動卓天和を完成させたが、竜太郎のほうが健康的だ(?)!


↓バードに登場する手積み時代のイカサマ師「蛇」は、指に磁石を埋め込むことで自動卓での仕込みを実現する。


↓一方竜太郎。「味な真似」というか、もはや(まさに)イリュージョン!




竜太郎の兄を自殺に追い込み、また、「鬼面竜」となった竜太郎を窮地に追い込む雀豪・福大人のイカサマもすごい。
なんと赤外線入りのコンタクトレンズをつけて、特殊な塗料でガンづけされた牌を見分けていたのだ!! 「赤外線入り」というのが日本語としておかしい!
が、麻雀博物館にある、サングラスをかけると牌の背が透けて見える麻雀牌は、確か専用サングラスのほかに専用コンタクトレンズもあるとの記述があったはず。あのような牌をモデルにしているのだろうか?

麻雀博物館所蔵の牌

福大人はかつてはレンズ工場の社長であったが、麻雀狂いの息子をヤクザとのいざこざで亡くして以降、ガン牌と特殊レンズを使ってイカサマ師をやりこめていた。そして竜太郎の兄を雀ゴロと間違ってしまった。竜太郎に破れた福大人は、敗者の責任を取り、硫酸で目を焼く。
昔の麻雀漫画にしてはかなり読める作品。科学的考証を行い、もっとナウい絵で描けば、いまでも鑑賞に耐えうる話だと思う。




上記作品以外にも6作が収録されている。
「あなたに破れて死んだ父……、父の血に染まって真っ赤になった四喜牌が忘れられない……」

「いまこそ復讐のとき……大四喜四暗刻よ!」

「なに!? アガった牌が赤く染まっていく!!」

「……って、火事だーー!」
とか、そういう話が。




作者の北山茂樹は、『麻雀三銃士』などの実に味わいのある作品で有名な漫画家。あのときは絵がゴーギャン風だったが、この作品ではシャガール風。
こんなラグナロク絵の奴にお色気を毎回描かせる桃園書房がすごい。「磁石返し鬼面竜」のお色気は無理がありすぎてすごい。主人公は対局中に出されたお茶に入っていた睡眠薬で眠ってしまう。夢の中では薔薇の刺青の女が乱れていた。気が付くとホテルのベッドの上。ベッドには女のぬくもりが残っていた。薔薇の刺青の女との情事は夢ではなかったのだ。という無理矢理っぷり。この刺青の女というのが内臓でいうと盲腸的存在で、話の進行にはほとんど関係がなくお色気要素のためだけに登場したとしか思えない。そこまでしてお色気を入れたかったのか……。恐るべし70年代劇画。こういうのを見ると、竹書房がお色気路線を見切ったのはマジ正解だと痛感する。




おまけ
↓より素敵な磁石返し画像