TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 麻雀代理人どなるどダクさん

柊達雄[原作] + 五十嵐幸吉[作画] 双葉社 1986
全2巻
 


┃あらすじ
渋谷・公園通りの雀荘「麻雀 ゼロ戦」の常連、ダクさん……本名・南風諾は近所の喫茶店の2階にあるちっちゃな「代理店」の社長さん。「代理店』と言っても電通とか博報堂みたいなのじゃなくて、「麻雀」の代理店なのです! 秘書兼経理部長の北川洋子さんと一緒に、どんな依頼にも「ダクさんのダクは承諾のダク」で引き受けます! さて、今日の依頼人は……?!



人情麻雀漫画。
『熱いぜ辺ちゃん』系。作者のセンスがよく、青年誌連載のマンガとしてかなりレベルが高いと感じる。




プロットは、諾さんが依頼人の困りごとを麻雀でもって解決するという至極単純なもの。
しかし、毎回シチュエーションがバラエティに富んでいる。麻雀狂いの亭主を構成させて欲しい奥さんのために近所の雀荘で打つというベタな話から、北海をゆく蟹漁船の船上毛ガニ争奪麻雀、南洋の沈没船に眠る麻雀牌の秘密をめぐるクルーザー上での麻雀勝負、山を切り開く建設業者と自然を守りたい猟師の戦い、サーカス、秘密カジノなど、さまざまな舞台でダクさんが活躍する。麻雀漫画には珍しいかなりのアウトドア系。ちなみにダクさんは北海道のサラブレット農場の息子。
また、航空ロマンとクジラ・海洋へのロマンが作中に盛り込まれている。麻雀ゼロ戦のマスターは(多分)元・零戦パイロットで、店でもなぜか常時航空服(紅の豚が着ているようなやつ)。ダクさんは自家用飛行機の免許を持っていて、南氷洋でクジラを追い掛けるのが夢。作品のなかに飛行機や海がたくさん出てくる。ダクさんの乗っている車もルパンが乗っているやつみたいな可愛くてクラシックな車。登場する小道具のセンスがとてもいい。これら麻雀に全然ない味付けがうまくて、1巻はこの味付けだけでも読める。


↓麻雀ゼロ戦とそのマスター。よく見ると飛行機の模型が店内に飾られている。



話がいつも誰も得も損もしない、イーブンで終わるのもいいなと思った。最近の青年誌漫画はこのあたりハッキリ白黒つきすぎるものが多いけど、このほうがなんだか大人の余裕がある感じ。




麻雀はライトめ。
登場人物が「1・4・7・2・5ピンの五面チャンだぞ!」等、説明台詞を喋る。近代麻雀系ならまずありえない(というか、こういう説明台詞が出た時点でキンマ的には麻雀漫画として終わっている)。さらに裏表紙に点数表もついていて、至れり尽くせり。麻雀はちょっとだけわかる、という一般読者向けの配慮が手厚い。




休日の午後に、お気に入りの喫茶店で「本日のコーヒー」を飲みながら彼女が来るのを待っているときに暇つぶしに読むのに適した漫画、という感じ。とってもおしゃれ。こういう感じのおしゃれさがある麻雀漫画って、あとは片山まさゆきくらいしかないと思う。