TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 真剣 ―実録!! フリーで1000万貯めた男―

黒木真生[原案] + 武喜仁[作画] 竹書房
近代麻雀ゴールド」2004年2月号〜2005年2月号連載(「真剣 ―HISATOの青春―」改題)
全1巻

┃あらすじ
歌舞伎町のとあるフリー雀荘。ムチャなリーチをかけてトップを取ったのはメンバーの若者、「ヒサト」だった。ヒサトの打ち方に文句をつけた同僚は、もしさっきヒサトのリーチに怯まずツッパっていればアガれていたと逆にヒサトにたしなめられる。一打で2万円の差、それが年間100万の負けにつながっていると。ヒサトは1冊のノートを取り出す。そこにはヒサトがいままでのメンバー経験・フリー打ち経験の中から導きだしたフリー雀荘での必勝法が綴られていた。「定価5万」のそのノートの真価は!?



戦術書麻雀漫画。
実在の競技麻雀プロ、佐々木寿人日本プロ麻雀連盟所属)のアマチュア時代をモデルにしている。




2-2-6、祝儀1000円の東風戦を舞台としているのが最大の特徴。
戦術書系漫画は初心者向けのセオリー解説がメインであることが多いが、これは完全にフリー雀荘に行く人、つまり中級者向け。




ヒサトは戦術指南において、ビジネス書のように端的・具体的にコツを述べてゆく。
「リーチをかけまくり相手を圧倒する」「ドラとうまく付き合え」「大事なのは決めておくということ」など、読んで→考えて→すぐ実践できる内容ばかり。リャンカンがどうした等のレアケース系・豆知識系ではなく、多くの状況でいますぐ使える戦術を紹介している。
戦術書マンガなのでネーム(文章)がとても多いが、語り口が若者の普通の話し方なので読みやすく、人によって意見が別れる精神論的なものでも「俺はこう思う」という書き方なので押し付けがましいウザさがない。




しかし、実はこの漫画、ヒサトがフリーで1000万「貯めた」男、であるところがポイント。
「稼いだ」ではないのだ。稼いだはしから使っていたのでは意味がない。麻雀で勝つテクニックより、日々を真面目に生きていくことの大切さが説かれている。麻雀の戦績・収支をつけ、無駄遣いをせず貯金するという基本的なことがなによりも重要だと実感させられる。実際ヒサトはメンバー時代、外食をせず自炊する、タクシー通勤せずチャリ通にする等、自分に厳しい生活を送っていたらしい。仙台の親元でニートしていたのも効いているとは思うが、エライよ、ヒサトは。普通、こんな若い子が自分の自由になる大金を持ったら、浪費して貯金などしないだろう。
また、他人の動作が遅いのなら自分から進んできびきびしてスタートボタンを押そう、というのが本当エライと思った。麻雀は時給制ではないのだから稼ぎたいならなるべく速くゲームを回そうということなんだけど、他人の怠惰さや不出来の文句を言っているひまがあったら、自分が率先して面倒な仕事をこなしていこう、それが最終的に利益を生むというのは、どんな社会にも活かせる教訓だと思う。これは気付いてはいてもなかなかできないよ。他人をぐちぐち言って終わりの人が多いはずなのに、それを自然にできるヒサト、おまえはホンマモンのエエ男じゃ〜。




マンガとしては、「フリー雀荘に来ている変な客」の描写に異様にこだわっているのがポイント。
いや、フリー雀荘にはこういう人が本当にいるというわけではないのだが、確かにこういう、通常の生活の中ではどのあたりに潜んでいるのかようわからん人……というのがいる。私は自分でフリー雀荘に行くことはないけど、人に連れられて初めて行ったとき(自分は打ってませんけどね)、仲間内の遊びとは雰囲気が全然違うのとお札が子供銀行券のようにあっちゃこっちゃするのも衝撃的だったけど、なにより私の普段の生活では巡り会わないような人がわらわらといたことに衝撃を受けた。若者向けの店ではそこまでではないと思うけど、こういう世界があったのか〜と。「Ku:nel」をよんで、ゆるくておしゃれなわたし*1にうっとり、とかそういうおしゃれライフがアホに見えるほどのインパクトだった。この麻雀漫画を読んで、その衝撃を思い出した。




ただ、漫画としておもしろいか? ということになると、あくまで戦術書漫画なので、漫画としてのおもしろさは微妙なところ。「近代麻雀」に載っているような麻雀漫画になじみのない人にはちょっと薦められないが、逆に「近代麻雀」を読んでいる人にはかなりお勧め。これは「近代麻雀」ならではのセンスが活きた漫画だと思う。こういう作品がもっと載っていればいいのに。




ところで、この作品はヒサトがプロになる前の話。ヒサトはプロになってどう戦術が変わったのか(あるいは変わらないのか)もマンガにしてほしいのだが……。最近まで「近代麻雀」に連載していたヒサトのコラム「無礼者」ではタッキー(滝沢和典プロ〜越後の奇跡〜/日本プロ麻雀連盟所属)とののろけ話が炸裂しまくっていた。タッキーとヒサトを主人公にして、タイトルは「タキ×ヒサ」あたりでここはどうかひとつ。

*1:私はこういう麻雀漫画のレビューをしてはいますけど、根はほンわか系のおしゃれッこなンです。Ku:nelは嫌いですが。