TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 サムライ雀鬼

高山潤[原作]+武市英介[脚色]+麻生竜也[劇画] 芳文社(1979)
全1巻

┃あらすじ
瀬島次郎27歳。表向きは平凡な会社員だが、麻雀の世界では知らぬ者はいない「サムライ雀鬼」と呼ばれる手練の雀士である。あるとき瀬島の手下が、大阪から来た麻雀秘密組織「クモ」の女幹部・加代にイカサマを見破られ指を切り落とされてしまう。「クモ」のやり口に義憤を感じた瀬島は「クモ」と全面対決をすることを決意。そんな瀬島に女幹部・加代の毒牙が迫る! 危うし瀬島! 果たして「クモ」のボスの正体とは!? そして「クモ」の本当の目的とは!?




世の中のポットが全部花柄だったころにトレンディだった麻雀漫画その2。
同じ原作・作画の『雀狂一代』と同じく映画やテレビドラマ風のスト―リーや演出がおもしろい。映画のコミカライズ風で、映像的なカッコよさを意識して描かれているのがよくわかる。扉も本文ページも1ページまるごとの格好良さ、イラスト・カットとしてのデザインを意識していてカッコいい。




お色気成分含有。
お色気女幹部、スケバン女子高生(だけどいまは押し掛け女房☆)、バーの女のコほか、主人公が無意味にモテまくる。ただ、ストーリーの展開がかなり速く、麻雀のシーンは削れないためほかのシーンがやたら圧縮されまくっており、エロがいろんなものごとと同時並行する。シークエンスになっている(映画ならワンカットの)会話シーンなのに、次のコマorページになると女がいきなり裸になっていたりして、一瞬落丁かと思ってしまう。ていうか、軽く落丁。





麻雀は「本当に超能力麻雀」系。

主人公は若い頃、山奥に住む麻雀仙人から、牌の背をさわっただけでその牌がなにかわかるという「指判術」を伝授してもらったのだ。空手や漢字の素養(漢文?)、「葉隠」という日本古来の武士道を二年にわたって徹底的に叩き込まれ、「サムライ雀鬼」が誕生した。らしい。
しかし、この「指判術」、海底が回ってきたとき、おもむろに牌の背をなぞって「うむ、逆転だな」と言ってツモる際などに使われるが、別に指判術を使わなくてもツモはツモ。せいぜい自山を積むとき山の中がなにかわかるくらいで、それじゃ僧我(@天)の「山を積むとき一瞬ジャラーッと撫で、スキャニングのように盲牌して山を覚える」のと同等の効果しかないような……。背だけでも不要意に牌に触れるのはやはり無理があったのだろうか。
また、「指判術」は牌以外のものにも有効らしい。物語終盤、瀬島とねんごろになっていた「クモ」の女幹部・加代が死に、その妹・佐知子が加代に変装して登場するというエピソードがある。瀬島は佐知子の尻にほくろ(加代の性感帯)がないことに気付いて正体を見破るのだが、「指判術」があれば触った瞬間に加代ではないことはわかるのではないだろうか……。




「クモ」の大ボスの正体はロサンゼルスの女マフィア、サラ・シモン。
「ミーハ麻雀ガ好キだ! ダカラ麻雀ノ本場デアル日本ヲミーノモノニシタイ…… タッタソレダケノコトガナゼ不正ナノカ?」
これに対して瀬島は麻雀にはルールがあり、そのルールに従って勝敗が決まる、不正はアンフェアだということを説く。麻雀のために日本制覇とはサラ・シモンも来賀クラスのカッ飛んだ思考回路。瀬島はえらそうなことを抜かしているが、指判術も麻雀のルール・倫理に反しているような……。




登場人物のファッションがとてもおしゃれ。麻生竜也はいまでいう安野モヨコ的作家だったのか、主人公は登場するたびに服を着替えているオシャレさん。髪型はそこはかとなくキモいが、そういえば小池一夫+芳谷圭児カニバケツ』の主人公もはじめはこういう髪型だった*1。昔はこういう髪型が色男の記号だったのか。




おまけ



↓主人公はサムライの中でも高杉晋作に似ているということで、「麻雀奇兵隊」なる組織を結成する。雀荘で「麻雀奇兵隊の瀬島だ!」と自己紹介する。カッコよすぎてなかなか真似できない芸当。

ちなみに「麻雀新選組」の沖田なる着流しの男も登場するが、阿佐田哲也とか小島武夫とかは一切関係ない。ある意味斬新だと感じた。麻雀奇兵隊/新撰組という設定がストーリーの中で全く活かされないのが残念。




↓必殺技は、やっぱり麻雀牌を投げること。





↓紙でできた牌にすりかえているというすごいイカサマ。


中国では、葬式や祭礼のときに紙でできた日用品などを死者への贈り物として燃やす。それにも麻雀牌セットがあるのだ。

*1:2巻途中で唐突に散髪、芳谷系さわやか短髪男子になる。