TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 雀狼海峡

明崎和人+影丸譲也 双葉社(1986)
全3巻(既読は1巻のみ)


┃あらすじ
新宿(ジュク)の雀荘からツバを吐きながら出て来た不良少年・五代烈は明日までに60万の金が必要だった。烈は歌舞伎町の公園で泥酔して寝ていた男のポケットから財布を抜き取り、再び雀荘に向かう。その烈の背後には、さきほど財布を抜き取った男が立っていた。男は烈の麻雀を見て鍛え甲斐があると予感する。そのとき烈はアガれば二着の牌を見逃した。烈が麻雀に必死になるのにはある理由があった。養護院育ちの彼は、それぞれ医者・弁護士・詩人になろうと自活しながら勉学に励む先輩に奨学金を渡すために麻雀で金を稼ごうとしていたのだ。結果、烈は四暗刻をツモり、逆転する。後ろで観ていた男……壬生勝利は烈を自らが主宰する麻雀塾「壬生会」に誘う。




青春不良ハイテンション麻雀漫画。
登場人物がニワトリ系*1ばかりでやたらノリと威勢がよい。




主人公が麻雀私塾「壬生会」に入り、さまざまな強者と出会って経験を積むものの反発して離脱し……という流れは武道漫画だとありそうだが、麻雀漫画で読むとちょっと新鮮。
会長・壬生は半荘1回たりとも負けない不敗の雀士を養成しようとしている。それは20年前、「麻雀は囲碁や将棋のように実力のある奴が勝つとは限らない」という理由から同卓者に勝負の途中で薬を盛って死に至らしめ、勝負をコールドゲームとしたかつてのライバル・沖に麻雀で復讐するため。で、その沖との勝負が1年後に迫っているという。20年前の中断された勝負と1年後の勝負は海峡で隔てられている。俺はその海峡を渡らなきゃ死んでも死にきれねえ! ザバーン!
……というのはなかなか苦しい感じがする。新宿には海峡はないから……。せめて津軽海峡が舞台の話にしてほしいが、最後まで読むとちゃんと海峡らしくなるのだろうか。
また、主人公の造詣が古典的不良過ぎて清々しい。悪ぶっているが本当は優しくいいコで一本気、尊敬する先輩や惚れた女のためならエンヤコラ、雨の日に子犬を拾う等、絵に描いたような不良。しかし、月60万で俺のところに来ないかと言われて初対面のトッツァンについていくのはどうなのか。麻雀漫画では結構そういうことが頻繁に起こるが(雀荘で出会ったメッチャ強い兄ちゃんについてく等)、なぜそんなに簡単にホイホイついていくのかは理解しがたい。




麻雀パートがかなりしっかりしている。

私が「ふーん」と思ったのは、冒頭で烈の麻雀を観た壬生が「麻雀を確率だと考えていない姿勢が悪くねぇ」と言うところ。ということは、86年頃の時点で麻雀は確率であるという考えが(少なくとも烈のような若者の間では)一般的であったと推測できる。自分は戦術史に暗いので現実にはどうだったかわからないけど、専門誌系以外で戦術の存在を前提に麻雀を描いている漫画は珍しいと思う(この作品の連載誌知らんけど)。もちろんこの漫画に描かれている闘牌というのは今見れたもんじゃないだろうけど、解説キャラもいて、こうツモってこうふうに捨てました、というのが順を追って描かれているのは結構近代的な麻雀漫画。「このアガリ形がすごい」じゃなくて「この手順がすごい」系。



大昔の麻雀漫画に戦術が描かれることはほとんどない。ギャンブル漫画から枝分かれしたためか、無頼な主人公と饐えた匂いのする世界の雰囲気を描くものが多いように思う。そのころの作品に描かれているのはイカサマや「このアガリ形がすごい」描写。イカサマやアガリ形それ自体に意味はほとんどない。
80年代後半以降、竹書房系のような闘牌をメインとする本格的な麻雀漫画が出現し、「この手順がすごい」という戦術が描かれるようになった。「流れ」などのオカルト*2戦術、あるいは合理的なセオリーを説く作品が出現した。しかし圧倒的に多いのはオカルトを描く麻雀漫画。
オカルトという言い方はよくないけど、麻雀漫画におけるオカルトとは本当の意味でのオカルト。ノストラダムスとか、ネッシーとか、神の奇跡とか、そういう意味でのね。既存のセオリーとは違ったなにか強大な力が世界を支配している話とでも言えばいいのかな。その「なにか」が何であるかに麻雀漫画のおもしろさは懸かっていると思う。それは合理的でないほうが好ましい。合理的な話は正直誰にでもできるので、意味不明で何言ってんだかかわからず、それでいながら鬼気迫る説得力があるものが一番面白い。説得力のあるなしと描いてあることが現実に正しいかどうかは関係ない。言葉で表現できないことが重要で、言葉にできるものになってしまったらその強大な魔力はあっという間に消し飛んでしまう。そういう気がする。自分でも何言ってるか全然わかんないけど、この作品はその信仰が死んで以降の世界の話かな。




もうひとつ。烈はイカサマを嫌っている。これは私にとって重要で、イカサマをメインに扱った麻雀漫画は読めない。イカサマが勝因だとげんなりする。その点近オリ最新号の「牌王」は最悪。




おまけ
壬生のいいぐさがすごい。

*1:三歩歩いたら何をしていたのか忘れる

*2:麻雀戦術では、迷信やジンクスを重視する態度を指す。たとえば負けているときはありえないところから鳴くなど普段とは違うように打つと好調になるとか、前局でミスをしたら次の局の配牌は悪い等。なかでも信者?が多い「流れ」という概念は太古の麻雀漫画には存在せず、ある時代になって「流れ」を描く漫画が現われた。と言われている。