TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 黒の雀譜

吉岡道夫+北野英明 広済社(1979)

┃あらすじ
今をときめく人気スター、千葉陽介と玉井モモエの結婚披露宴の取材に来ていた「週刊芸能」記者の土井一騎は、その夜行われる麻雀に誘われる。土井が雀荘へ出向くと、そこには今日の新郎・千葉の姿があった。千葉は結婚初夜にも関わらず、妻のいる家に帰らずに麻雀をするというのだ。当然雀荘にはモモエから千葉を呼び出す電話がかかってくるが、千葉はそれを無下にあしらう。トップを走る千葉だったが、オーラス、土井の九蓮宝燈に振り込み転落する。そのとき、再び千葉への呼び出し電話が鳴る……




芸能記者を主人公とした麻雀漫画。
芸能人、プロ野球選手、有名作家らと様々な麻雀を打つ。主人公がマスコミ遊軍記者……というのは『ゴキブリ雀鬼』と同じ。当時は週刊誌が輝いていた時代だったのか。




注目は「盲牌地獄」という作品。
70年代くらいの作品だと麻雀漫画というよりギャンブル漫画の派生種っぽい作品が多く、麻雀をどうこうすることに主眼を置いているわけではないと思っていたけど、ここではいま読んでも読みごたえのある、少しひねったシチュエーションの麻雀が展開される。
「盲牌地獄」では牌の模様を目視確認せず、盲牌だけで配牌からツモまでを行なう麻雀が行なわれる。盲牌のミスによるチョンボの罰符は10万円。しかし、それだけではあまりに普通。
実はこの盲牌麻雀には裏があり、のまんなかの●の彫り込みが極端に浅く、盲牌しようとするとと間違えてしまうというイカサマ牌が使われる。ほかにもに偽装している牌があるかもしれない、という不確定要素の中で打つ。字牌、萬子などのような細工のできない牌を使ってテンパイさせることが勝利への近道。しかし、逆にこの罠を仕掛けている敵自身もは盲牌だけでは区別がつかないので、チョンボを誘発させることもできる。さて、土門はどのようにこの勝負を切り抜けるのか。




ほかの注目は東大で物理学を専攻する学生名人が登場する「出発」。

学生名人・野部計介はあだ名がコンピューターなだけあってデジタル系。彼はこう唱える。

(配牌は平均3前聴で、7前聴以下になる配牌はないと説き)そうです。だから配牌が悪いといってクサる必要は何らないのです。どんな手でも配牌と摸打の組み合わせさえ間違わなければ必ず勝てる。
麻雀は確率と推理のゲームですよ。ツキだのカンだのとあてにならないものをあてにする人は麻雀をやる資格をないとさえ僕は思いますね。

これに喧嘩をふっかけるのが「勝負はすべて気合いじゃ。気合い以外に何もないっ!」と主張する剣豪作家の五無孝作。気合いで相手の待ちを読み切ることができる。とは言っても野部はたとえば字牌待ちのときは字牌が切られたのを見るといちいちピクッとするとかいうしょうもない傷があるから、ある程度待ちが読めるというのはわかる。
しかし野部は自ら破滅する。面子のひとりの女優・日高美代子が酒に酔っぱらってミニスカなのにあぐらをかきはじめてモロ見えになったパンツに気を取られて判断力を失い、さらに四槓子テンパイで冷静さを失い、土門に親倍を振ってしまう。しかしまあ押しますよね。四槓子テンパイしたら。コンピューターも八方破れもなく。どうせいまさらオリられないし(結果としてそれを狙っていた土門の場に3枚切れのカンチャン待ちに刺さる)。最後はソーズのメンチンに気を取られて自ら緑一色のチャンスを逸し、自分の浅さを恥じた野部は負けを認める。


ここに登場する八方破れの気合い系雀士「剣豪作家の五無孝作」というのは、麻雀小説を書いた時代小説作家・五味康祐をモデルにしていると思われる。野部にもモデルがいるかは不明。




「麻雀用具のかきぬま TELXX-XXXX-XXXX(代表)*1」と妙にはっきり書いてある起家マークが収録作中で何度か使われているのが気になる。

かきぬまというのは実在の麻雀用具メーカー。これってなんでこんなにはっきり書いてあるんだろう? やはりかきぬまの宣伝? 当時かきぬまは麻雀漫画or北野英明に出資していたのかしらん? それとも北野英明のとにかく背景・小物を病的に細かく書く習性が出ただけ??




ほか、ちょっとよくわからない用語がある。当時の言い回し?


Q. ライライってなに?

A. 「来々」のことか? 


Q. カン振りってなに?

A. カン振りとは、他家がカンしてリンシャン牌をツモったあとに捨てた牌でロンしたときに発生する古役。1翻。




まんが表現としては、「ロン」や「ツモ」の発声の描き文字のなかになぜかおひさまマークみたいなよくわからん模様が描いてあるのがプリティ。




麻雀とは関係ないが、途中に競馬ネタがある。
登場するのはテンポイントトウショウボーイといった往年の名馬。といっても私は実際にはどういう馬だったか知らないんですけど。堀江敏幸『いつか王子駅で』に出て来たから名前を知っているだけです。一番人気のテンポイントがレース中にハンデのおもり(正式名称がわかりません……)が重すぎて骨折して、大穴が勝つという話だった。これは実際にあったことなのかしらん。

*1:かきぬまの現在の問い合わせ先番号と異なるため、文中及び参考画像をぼかしているが実際の単行本では本当に電話番号が書かれている。