TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 海雀王

志村裕次+渡辺みちお 実業之日本社(1985)

  • 全?巻(既読は3巻まで)
  • 「傑作麻雀劇画」連載

 

┃あらすじ
瀬戸内海、塩飽諸島の旧家の子息にして塩飽海賊の末裔、怒魔灘太郎(ぬま なだたろう)は「麻雀で瀬戸を盗る!」と宣言し、仲間とともに青龍丸を駆って船出する。しかし、瀬戸内海は弓削島の番長・大三、因島の番長・亀山といった各島の水軍番長、それら群島の水軍に大きな影響力を持つ大三島大山祇神社の巫女番長・紫陽といった様々な番長たちがそれぞれの縄張りを仕切っていた。灘太郎は番長たちを麻雀で下し、瀬戸内海を手中にすることができるのか!?




ボンボンあるいはコロコロ系麻雀漫画。瀬戸内海の覇権を賭けて様々な水軍の番長と麻雀で勝負する話。
絵は『鳳』とか『白竜』の人で、非常にイモい。



戦国時代から明治初期くらいまでのいずれかの時代を舞台にした大河ものかと思っていたが、違った。舞台は「魔神英雄伝ワタル」とか「魔動王グランゾート」のようなアニメ的ライトファンタジーの世界だと思うとわかりやすい。「瀬戸内海の覇権は麻雀で決められる」とか「水軍の首領は番長と呼ばれており、乗組員みんなツッパリ」「そして学ラン」といった世界観が意味不明すぎるが、「ワタル」や「グランゾート」の仲魔だと思えば理解できる。マジおもしろかったよね。『ワタル』とか「グランゾート」って。あの頃の心を思い出させてくれるステキなファンタジー麻雀漫画。
ライトファンタジーと考えると世界観がしっかりしている。大山祇神社厳島神社、赤間神社といった神社の権力関係とその秘密など、伝奇&和製ファンタジー要素も盛り込まれている。




注目は原作・志村裕次らしさが光る特殊麻雀。
そのうち最も有名なのは海を舞台に行われる「群船麻雀」。

まだ因島連合が統一されず大三島を始めとする四つの勢力がぶつかり合っていたときの因島の初代番長がこの群船麻雀を提案し勢力統一をはかった
その結果因島が群船麻雀に勝ちいまの因島軍団が誕生した
それ以来乱世の象徴とされ禁止されていたあの伝説の群船麻雀が……
遂に始まる……!

群船麻雀は、海に浮かべた小舟を麻雀牌に見立てて麻雀を行なう。サイコロは発砲スチロールでできており、ダイバーがサイコロを持って海中に潜り、ほどよいところで離してサイコロが浮かんで来たとき、海面に出ている目を出目とする。また、点棒は点棒係が船で回収・配って回る。特殊なオプションルールはなく、一般的なアリアリルールを船でやっているだけと思っていただければOK。


個人的には、オプションルールをつけてもっとスケールのデカい軍艦でドンパチやってほしかった。気に食わない牌をツモったら砲撃してブチ壊してもよいとか。一発消しで撃沈してもいいとか。


いや、それにつけてもこれ、役牌などのよく鳴かれる牌の船の人は大変ですよね。気軽にはポンチーできません。操船技術までも問われる、まさに海の漢の麻雀。

↓サイ振りと配牌


↓チー

↓リーチ

↓点棒移動




以上はよくネタとして扱われる「群船麻雀」であるが、麻雀漫画ファンとしては1巻冒頭で行われる、総纜把を決める麻雀の特殊ルールに注目。
総纜把位争奪麻雀*1は、をいかに多く使ってアガるかで勝敗が決される。通常の点棒で計算される点以外に、を多く集めた者が総纜把となるのだ。ちなみに(多分)東風戦。


オーラス、主人公・灘太郎はここまでノー和了を使ったアガりこそないものの、ドラカンツにカンドラも乗ったドラ8というすさまじい手でリーチをかけていたトップの観音寺の沼田に対し追っかけリーチをした灘太郎は、沼田から以下のような手を一発でアガる。
  ロン
このままではドラもないリーチのみの手で沼田を逆転できない。しかし、「この手がテメェを引っくり返せなかったら それだけの強運がこの灘太郎になかったら― この場で舌を噛み切ってやるぜぇ!!」と宣言した灘太郎が裏ドラをめくると裏ドラ・カン裏・2枚目のカン裏その3枚全てが! つまり、のカンツに裏ドラがモロ乗りしてリーチドラ12の数え役満で灘太郎は沼田を逆転し、総纜把となる。「俺の暗刻はそこにある」と「そこに北はあるんだよ」を足して煮こごりにしたような展開! カッコイイ! 超・麻雀漫画でスナ!!!




さきにも書いたが、ノリとしては「ワタル」「グランゾート」あるいは「スーパービックリマン」の類い。いまは絶滅したオールドなオタク的ライトファンタジーの世界を持っている。同時代の竹書房は社会性と現実味がある世界観を有する完全大人向けの麻雀漫画を提供しているので、こういう要素の取り入れは結構不思議に見える。グリーンアロー系もそうだけど、竹書房以外ではずいぶんすごいことになっているものがいくつか確認されている。これもそのうちのひとつか。こういうオタク的?世界観っていうのはおこさま向け、オタク向け以外の業界にも存在したのね。
『あぶれもん』もイッちゃってますけど、これと『あぶれもん』のイかれベクトルは違う。『あぶれもん』は実際には『海雀王』よりも遥かにイっていて、そのイき具合はいま読んでも当時と同じおもしろさだと思うけど、「ワタル」とか「スーパービックリマン」みたいな世界観が理解できないと『海雀王』のイき具合は後世では理解が難しいのではと思う。




おまけ
カバー表袖に載っていた登場人物紹介を転載しておきます。



なによりカバー裏袖にあった著者紹介がすごい。志村裕司はここではおいておくとして、渡辺みちおの略歴がすごい。

渡辺みちお
昭和29年7月27日新潟県佐渡ヶ島生まれ。島での金掘りを断念し一獲千金を夢見て上京。漫画家をめざし、かざま鋭二氏に師事する。代表作『海雀王』、そして「週刊漫画サンデー」に『まるごし刑事』を連載中。

いろいろすごい。しかも近影の写真で見ると、似てるんだよね、顔が。自分の絵に。





さらなるおまけ


怒魔と佐伯が昨夜の初対局を思い出し、再戦のための対抗策を練るシーンでは、現代では滅亡した捨て牌に工夫を凝らす系の闘牌を見ることができる。

                                                                                              • -

その夜、佐伯は先の対決を回想する。

南?局?本場 怒魔のリーチ
 ドラ

先の手合わせ、大きく佐伯にビハインドしての怒魔のリーチ。佐伯はこれを678の三色と読み、が切られていることからが通ると推測する。しかし、

 ロン(一発) ウラドラ

切りは佐伯に678の三色とミスリードさせるための罠であり、も佐伯を誘うための迷彩(?)だった。さすが麻雀で瀬戸を盗ると抜かしただけのことはあると佐伯も感心感心。

てかこのシーン、本編に出て来ないんですけど。もしかして佐伯さんの妄想の産物ですか?

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一方、怒魔もまた佐伯の戦術を分析し、佐伯を凌駕する策を練る。
たとえばこれ、何を切る?

 ツモ ドラ?

切りでピンフ一通テンパイだが、攻守のバランスに優れ見切りの速い佐伯のこと、これを一通だと見抜かれるのは間違いないと想定する怒魔。を落とすか? しかし、怒魔はペンチャン・カンチャンこそが佐伯に対する絶好の罠になりえると考える。では何を切るか?
怒魔の答えは「どうにしろ一通は諦めるので、をトイツ落とししてを軸に一メンツ作り直す」。んな悠長なことやっとったら進行が遅くなるし佐伯に読み切られてベタオリされてもツモればええやんけ! と思うのがトーシロのあさはかなところ。この手のポイントは「佐伯のバランスを崩す」ことにあるのだ。

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※以上の闘牌は妄想であり現実ではありません。なんか知らんけどお互いに妄想して超盛り上がってるのです。その妄想力、鷲巣様なみ。

*1:私が勝手に命名したもので、よそで言うと恥をかくのでご注意ください。