TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 ゴキブリ雀鬼

吉田幸彦+くずはら和彦 芳文社(1980)

┃あらすじ
麻生論平は日東スポーツレジャー部の遊軍記者。仕事でも麻雀でもいまいち気迫に欠けていた論平だが、アマチュア雀士王位戦で優勝すれば伝説の雀士・米倉伯典と打つことができると知り、俄然やる気を出す。しかし論平は大会途中で伯典が帰ってしまったことを知ってありえない放銃を犯してしまった。失意の論平に伯典の娘が声をかけ、彼女のとりなしで伯典と打つ場が設けられることとなる。伯典は論平に見覚えがあると言うが……?




スポーツ新聞記者の麻生論平が活躍する短編集。
主人公・論平を筆頭に、麻雀の神様と呼ばれる米倉伯典やその娘であり論平の恋人である妙子、日東スポーツカメラマンのシブ柿らさまざまなキャラクターが登場する。今はまったく流行らないが、当時はブン屋とかルポライターものが人気あったのね。
麻生論平を主人公とした「ゴキブリ雀鬼」シリーズは『雀鬼無頼』にも収録されている。




絵もバタくさいが、話もバタくさい。分類としては、『天牌・外伝』のような1話完結の人情麻雀の部類。
途中に唐突に入っている論平と伯典先生の娘・妙子の婚約話はいきなり展開が少女漫画ちっくになっている。ふだんとコマ割りが全く違い、点々のアトモスフィアーやはっぱがフワフワしている。まあ、演出が少女漫画なだけで絵ヅラはバタくさいままなんですけどね。ちなみに、女性キャラの顔はヒロインも雑魚もみんな同じ。




麻雀にはとくに見どころはない。論平はブン屋だが、俗にいうブン屋ルールなどの業界ルールで打つわけでもなし。取材先のいろいろな業界の人とその業界特有のルールで打つ、というのもよかったのでは。


麻雀はイカサマものを除外すればちゃんとやっている。理牌や手出しの位置からテンパイ形を推理する女雀士、メンチンをツモってもアガらず最高形である九蓮宝燈にまで持って行く妙子など、強い女性雀士が何人も出てくるのがポイント。
イカサマものに関しては、山に仕込むタイプのイカサマを描く機会が多いためか、山を積むシーンが毎度丁寧に描かれている。サイコロを振るときもおまじないにフッと息を吹きかけていて、かわいい。




それにつけても見事にインパクトのあるタイトルをしている。
なぜゴキブリなのかというと、「ゴキブリのようなしつこさで迫るブン屋雀鬼・麻生論平がくりひろげる麻雀事件簿」という意味であるらしいことがカバー袖に書かれている。が、本編ではゴキゴキしたことは一切やっていない。あえて言えば前髪が触角っぽいことくらいだが、くずはら和彦の描く主人公キャラには大概触角が生えている。主人公の仕事仲間に「シブ柿」がいることだし、主人公のふたつ名が「ゴキブリ」だったらよかったのに。
そういえば、芳文社の「特選麻雀」*1に、扉にゴキブリの絵が無駄にでっかく描いてあるマンガがあった。同じ芳文社から新垣勲『ゴキブリ刑事』という作品も出ている。当時芳文社でゴキブリが流行っていたようだ。芳文社カサカサ系はほかに、主人公がオカマ刑事の原麻紀夫+左近土諒『さそり刑事』がある。




おまけ
↓指の隙間から見るのが乙女のたしなみでございます。


『雀鬼無頼』に続き、梵天オヤジその6。くずはら和彦は梵天ハゲが好きなのか。

*1:1980〜88年に発刊されていた芳文社の麻雀漫画雑誌。全体的にイモっぽい漫画が多い。灘麻太郎がご意見番だった様子で、灘麻太郎が北海道の熊ハンターと麻雀を打つとか、そういうわけのわからない旅打ち麻雀漫画が載っていた。ほかにも地引かずやの麻雀ラブコメなど、貴重なものが拝める。