TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 ギャンブル地獄

古岡道夫/野村敏雄/志村裕次+北野英明 秋田書店(1976)
全1巻

┃あらすじ
ベカ辰はイカサマ用のバクチ道具を作る細工師。彼が取り組んでいる毛入りガンの花札には美女の緑發(恥毛)が埋め込まれている。ベカ辰は最後の「桐」の札に吉祥天の如き美女の緑發を入れるため、吉祥天を求め街を彷徨っていたところ、吉祥寺の道端で偶然に凄艶な美女を見つけ、「あんたの緑發をくれーーっ」と叫びながら抱き着いてしまったがため痴漢と間違われ、パトカーを呼ばれ警察署へ連れて行かれてしまった。日を改めて吉祥天に緑發をくれと申し込むベカ辰だったが、吉祥天の旦那は麻雀で勝負して勝てばいくらでも緑發を抜かせてやると言う。麻雀が打てないベカ辰はプロ雀士・青江狂介に代打ちを依頼し……。(「悲願の緑發」)
 



かなり素敵な北野英明傑作選。
ギャンブル漫画の単行本で、収録8作品中6作が麻雀漫画(残り2作は競馬漫画)。
絵が素敵にヤバい。表紙袖に「私のギャンブル劇画の単行本も、この『ギャンブル地獄』で13冊目になった」と書かれているので、別に初期作品なわけではない。かと言って北野英明の麻雀漫画初期作品かというと、カバー裏袖の既刊案内を見ると、この時点で『麻雀群狼伝』『雀鬼三国志』『麻雀水滸伝』(以上野村敏雄原作)『雀ごろブルース』『牌の魔術師』『天和無宿』(以上阿佐田哲也原作)『必殺のマージャン』(小島武夫原作)『セイガク打ち』(速水駿原作)『雀狂哀歌』(吉岡道夫原作)が載っているので、そういうわけでもない。
ちなみにカバー表紙側袖に北野先生のお写真が載っている。「美女牌崩し」に出てくる自分をモデルにしたキャラみたいなトンマな顔はしていなかった。




麻雀漫画がまだギャンブル漫画や成年漫画の一部だった時代なのか、麻雀より女の裸のほうが重視されたものばかり。ただ女の裸を重視しているだけならいいのだが、話が全体的にカッ飛んでいる。いままでに読んだ麻雀漫画のなかでは最高水準。

  • 「悲願の緑發」……美女の緑發(恥毛)をもらうために麻雀で勝負する話。(原作・野村敏雄)
  • 「雀牌慕情」……こっちでお手合わせ願えればへっへへへ下もお手合わせできるってもんだろという話。(原作・野村敏雄)
  • 「死の麻雀大会」……今夜の麻雀で一番のラスをとった者があの女の死体を抱かなければならないのだ。俺が生まれてこのかた守ってきた童貞を死体相手にささげられるものか! という話。(原作・志村裕次)
  • 「カマキリ」……麻雀が強いとカマキリ女が裸エプロンでベーコンエッグを作ってくれる話。
  • 「北は俺の切り牌」……本当に意味がわからない話。
  • 「美女牌崩し」……麻雀劇画作家・北野英明がファンの女性と麻雀する話。

私のお気に入りは「悲願の緑發」と「死の麻雀大会」。「悲願の緑發」は上記あらすじ通りの話で、「死の麻雀大会」は呪わた牌にびびったチェリーボーイが大三元四暗刻テンパイを中を切って崩す話。なお後半3本は原作なしの北野英明ピン作品。そのためかなりヤバい。


いずれの作品も麻雀がどうしたということより、イントロダクション(麻雀に持ち込むまでのシチュエーション)に力が入っている。おそらくプレイコミックに掲載された作品をまとめたものなので、読者は別に麻雀が読みたいわけじゃないから麻雀に持ち込む工夫が必要だったのだろう。そのため、闘牌重視の麻雀漫画を提供する竹書房系麻雀漫画から見ると、麻雀描写が非常に少ない(70年代後半の初期竹書房作品については私のリサーチ不足のため傾向が不明だが、80年代後半の作品では漫画の構成要素のなかで闘牌が最重要視されていると思う)。竹書房系の近代的な麻雀漫画では「人間はほ乳類」と同じレベルの当然さで麻雀が大前提になるため、麻雀で世界征服とかよくわからないことがおっ始まっていても特に気にも留めないが、やはりイントロダクションというものは本来は本当に大事なことなのだ。




麻雀的みどころとしては、「カマキリ」のブー麻雀。
現在のブー麻雀ルールの店の精算方式を知らないのでなんとも言えないが、この作品ではなんだかファンシーな点棒を入店時点で5000円分等購入し、これを使って精算している。客同士で貸し借りしているシーンもある。

ただしブー麻雀をしているシーンより女と乳繰り合っているシーンのほうが長いので、ブー麻雀がどうしたという話ではない。というか、全体的に麻雀がどうしたという話ではない。こういうのを見るとやはり「近代麻雀」の闘牌へのこだわりが強く感じられる。へらぶな釣り専門の雑誌もすごいが、「近代麻雀」もすごい。




北野英明作品に共通する要素として、「背景や登場人物のファッションの描写が病的に細かい」がある。とくに喫茶店雀荘、住宅の内装の懲り方がすごい。凝ったインテリアの部屋ばかりなのにデザインの使い回し一切なし。インテリアのおしゃれさもすごいが、女の子の部屋に置いてあるパンダのぬいぐるみとか、電話につけるレース付きのカバーだとか木目のキャビネットだとかの当時らしいディティールがもう果てしなく素敵。雀荘も椅子や麻雀卓をはじめ内装が登場ごとに異なっている。すごすぎ。

また、昭和60年の裸エプロンに続き、昭和51年の時点で裸エプロンはあったことが判明した。正確にいうと、裸前掛け。北野先生は乳首にこだわりがあるようなので、これが北野先生のBOYS BE 最高形なのだろう。原作なしの作品に出現するので、北野先生が自主的に取り入れたものだと推測される。




おまけ
昔の麻雀漫画にはさまざまな実験的マンガ表現が散見される。以下は北野英明作品にたまにある前衛的タイポグラフィ表現。一瞬背景にそういう看板があるのかと思った。