TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 雀鬼郎

志村裕次+北野英明 グリーンアロー出版社1984
第一巻/牙の巻、第2巻/狼の巻
全2巻

 


┃あらすじ
新宿に現われたひとりの青年。出張で上京してきたかのような風貌の彼をカモと見込んで声をかけたのが運の尽き。彼、宗方清次郎は故郷・高知で高校教師をしていたが、雀荘で暴力事件を起こし免職となって、麻雀で生きていこうと上京していた。そして、清次郎は故郷では「雀鬼郎」と呼ばれるほどの打ち手だったのだ……。




ポクチン無頼なのネン系麻雀漫画で「左様でございますか」としか感想が出ず、つまらない。話も設定も破綻してるし。しかし……



2巻の頭に「力学麻雀」なる理論を唱える物理学者が登場する。

つまり麻雀という物体を点と考えるわけです。つまり質点ですが、この質点の線上が手牌。この手牌の線に支点と力点ができるわけです。支点とは配牌、力点とは……ツモ牌……。そしてこの支点と力点に作用する作用点があるわけですが、それがこのリーチというわけです(ト、リーチをかける)。ニュートンの力学の基本法則の第三項に、作用には必ずそれに対立する作用が伴うとあります。つまり自分がリーチをかければ相手もリーチをかけてくるということでしょうか。

とのことだが、(本来の意味での)オカルトすぎて何を言っているのかわけがわからない。実際の麻雀の進行では物理学者はこの直後にリーチをかけた清次郎の待ちをすべて使い切っていて、そのリーチ宣言牌でロンするという展開がある。しかし、結局清次郎はノーテンリーチをかけまくって物理学者を惑わせ負かすという、全くなんの答えにもなっていない勝ち方でこの話は終わり。
昔のこの手の麻雀漫画は謎の技が出てきても、それの裏をかくといった頭脳戦で解決させないため、読んでいてものすごくストレスがたまる。
逆に頭脳戦にはしない方向性つまり超常麻雀を描くなら、それに真実味(現実味ではない)を持たせる「説得力」が不可欠であり、その描写力がない作り手がそれを描いてしまうと、読者の反感を買うことにしかならない。何に説得力を感じるかには個人差があるとは思うが、説得されないまま読んでいるとその微妙な違和感は不快さのタネになり、悪印象につながる。



しかし、この漫画は2巻の後半から特殊ルール麻雀がはじまり、おもしろくなる。
まずスタッドポーカーを応用したポーカールール麻雀。

ポーカールール麻雀

  • 配牌は普通に行うが、ツモった牌は手牌の中に入れず、手牌の右側に開いて並べて置く。
  • つまり、「ツモッてきて手牌に組み込んだ牌は、公開する」。
  • 捨て牌のしかたについては、ツモ切りしてもいいし、伏せてある牌(配牌から手牌にある牌)から選んでもいいし、開いている牌(ツモッてきて手牌の中に入れた牌)から捨ててもいい。普通の麻雀と同じ。

つまりちょっとやそっとの迷彩は無効になり、公開されている部分の手牌から相手の手役を推理するというもの。例としては、

相手手牌: 
捨て牌 :
とあったらピンズのメンホン?と思うが、倒すと実は七対子だったり、というシチュエーションがある(というか、打ったのがピンズのメンホンじゃなくてよかったネ……という印象のほうが強いが)。

相手和了   ロン

しかしこの対戦では、主人公の手牌が1枚を残して晒されていて、それがどう見てもピンズのチンイツ四暗刻なのに、なぜか敵役がピンズを切ってきてロンされるという、いくらなんでもそれはない終わりを迎えた。




また、主人公が新聞記者と打つ場面では記者(ブンヤ)ルールという一局精算特殊ルールが行われる。

記者(ブンヤ)ルール

  • 一局現金精算。
  • 「特ダネルール」として、が手の内に1枚あるごとに点数が倍になる。例えば3900点の手をあがったときその中にが入っていれば7800点、2枚あれば11700点。これはを特ダネ印の赤のぐりぐり丸になぞらえたもの。
  • 逆に振り込んだときにを持っていると倍払いになる。特ダネを握っている奴は往々にして人に恨まれるのだ。

このルールを適用するといかにを使いきるか、いかに見切るかが鍵になる。主人公はそれを体感しながら勝つ方法を探っていくのだが、しかし、これまた最後、主人公が待ちの四暗刻聴牌したところで急なニュースが入って面子が抜けてしまい、主人公は勝てないまま終わるのであった……。麻雀漫画としてダメすぎる……。



こういうのを読むと、いかに福本伸行の特殊ルールをめぐる描写がちゃんとしているかというのがよくわかる……。私のような麻雀がいまいちわかっていない人間にとっては特殊ルールのほうがむしろとっつきやすいが、スカッとしないうやむやな終わり方はちょっと……。



この漫画の見どころはプチネタ。
↓素敵な看板「HOTEL ギンギラ銀 さりげなくお入り下さい」。右端の看板も直球で微笑ましい。

↓素敵な看板「ほのぼのローン トイチ!!」。「ロ」の文字がハートマークになっており、プリティ。

↓昭和60年の裸エプロン

主人公がヒロイン京子を「お京」と呼んでいるのも泣かせる。戦前の小説には頻出するが、昭和末期までこの「お○○」という呼び方は存在していたのだろうか。

また、部屋の内装や主人公のファッションなどがそこはかとなく昭和で涙が出る。花柄のプリントのついたポット、ロボチックなデザインの電気炊飯ジャー、妙な幾何学柄の玄関マット、ポップな柄のはぎれ布をかけた鏡台、ビーズののれん、ダサイ折り畳みテーブル、テレビも洗濯機もダイヤルつき……。ディティールの細かさに涙が止まらない。