TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 麻雀蜃気楼

来賀友志+甲良幹二郎 竹書房

  • 「別冊近代麻雀」1991年7月〜1994年1月連載
  • 全3巻

お借りしたものです。いつもありがとうございます。

しかし、だんだん感想を書く麻雀漫画がマニアックなものになっていっていることを感じます。ごめんなさい。でも、そのような漫画も、そのタイトルで検索で来て下さる方がいらっしゃったり、「読みました」と言ってくださる方がいらっしゃると、とても嬉しいです。



┃あらすじ
建築会社で働く青年・野中雄二は、独立するという夢を持ちながら平凡なサラリーマン生活を送っていた。真面目な好青年だった彼は、あるとき同僚に連れられてフリー雀荘に行く。予想以上に勝った雄二は、同僚と分ける筈だった勝ち金をごまかして彼に渡す。その後日、会社で嫌な事があった雄二はまた雀荘に行くことになるが、そこで彼はマスターの目を盗み、隣の卓から点棒を抜く…。平凡なサラリーマンだった彼の行く末は…?



……暗い話でした。
主人公は、それはもう黒沢さん(プロレタリアートのほう)かと思うほどに……いや、人から明確に蔑まれている分、さらに悲惨か……。とてつもなく暗い気分にさせて頂きました。
この主人公はごくごく普通に、将来の夢を持ちながら、同じく将来に夢を持つ彼女とそれなりに幸せそうに日常を過ごしていたのに、麻雀に足を突っ込んでしまったのが運の尽き。というか、彼の場合は麻雀に嵌ってしまったとか、点棒を誤摩化すなどというセコいことをしたということよりも、「自分の心は自分で思っているより醜い」ということに気付いてしまったのがよくなかったのでしょう。博打って恐いですねー。
このような主人公の心境や精神状態の描写がとても丁寧に描かれていて、それがとてもよいです。黒沢さん(麻雀職人のほう)のようにものすごく一本気に、或いは麻雀一本には人間生きていけないわけで、「俺は間違ってた」と思ったりする、心境が変化してゆくこの主人公のそのゆらぎがとてもおもしろい。主人公はずっとわりと冷静で、ドラマチックな展開が起こっていようとも淡々と話が進みます。なんと言うか、『ニューシネマパラダイス』みたいな感じ。事実を受け止めて、それと自分との関係を冷静に見つめ、自分の中で消化してゆく。

よいと思ったのは、主人公やその他麻雀に命を賭けた人物でも、必ずしも最強というわけではないというところ。このあたりまで淡々としているところがいいですよね。

終着点もよかった。主人公が、麻雀を通して何に気付き何を考えていったのか…ということが全編を通して描かれていて、麻雀のセオリーやそのゲーム性を描く麻雀漫画とはひとあじ違う面白さでした。
原作は来賀友志さんなんですね。今迄に読んだ『天牌』『あぶれもん』とはトーンが違って地味な話ですが、こういう雰囲気もおもしろい。


絵は死ぬほど濃いです。「クマゴロウのことある」とかいう言葉が無意味に浮かんできます。でも眉毛が異様に濃いことはあまり気になりません。本質的にはかなり巧い絵だし、内容に合ってるから。私はアニメ絵風の絵柄はちょっと苦手なので、これくらいがいいのかもしれないと思いました(よくない)。でも主人公の髪型は意外とナウいです。オノマトペの書き文字はまるっこくて異様に可愛く、正直浮いています。


最後に、貝住(主人公のライバル的代打ち)の名前を途中まで「貝柱」さんだと思っていて、「なんだかおいしそうなおなまえ…」と思っていました。すみません。