TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 次郎長放浪記

阿佐田哲也 角川文庫

阿佐田哲也版「清水の次郎長」物語。
清水の豪商の養子であった次郎長が清水を出奔し、その土地その土地のヤクザのもとを渡り歩きながら仲間を増やしつつ博打で諸国を巡り、そしてまた清水に戻り…という物語。『麻雀放浪記』よりハードな博打の世界が展開されています。


阿佐田作品だけあって(?)博打がメインのストーリー展開です。メインはサイコロや花札を用いた博打。鉄火場の描写はなかなかおもしろいです。この世界のギャンブルでは、「流れ」がキーワードとなっていいます。負けが込んだ者の裏目を張る(裏目じじい戦法)、ツイてない親を見たら親ッかぶりリーチ(オカルトシステムNo.33)的に、「運」は相対的に存在しており、その動き・流れを読むことができれば勝ちを手に入れられる。次郎長はそのあたりをわきまえて博打の場では迷いなくキッパリと大金でも張ってゆくが、それ以外の場面では、常時これでよかったのかと自問自答したり自分にいろいろ言い聞かせてみたりと悩んでいます。このあたりの落差がおもしろく、阿佐田作品らしい雰囲気を作っていると思います。
ところで、皆薄々感じていることだとは思いますが、原先生の『次郎長放浪記』はあまりというか全く原作に沿って展開していなかったりなどします。あえて言うなら蛙けんが本当に蛙顔だったことくらい(?)。


それにつけても、麻雀漫画の多くが完全男性社会のホモソーシャルっぽい世界であるのに対し、阿佐田小説には女性の登場人物もちらちら出てきますよね。かつ、物語のポイントとなるような女性登場人物も多いと思います。『次郎長放浪記』や『麻雀放浪記』に出てくる女性は、ある意味で主人公たちとは異なる強さがあります。このあたりの描き方も好きです。

麻雀漫画でも、女性登場人物の扱いは作家によって差異がありますね。『むこうぶち』はそのあたり、描き方がほかの漫画と違っていておもしろいです。


ただ、福本先生は無理して女性を描かなくてよいと思います。『最強伝説黒沢』に出てきたギャルたちを見ていると、切なくなります。