TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 オーラ打ち言霊マンボ

片山まさゆき 竹書房
近代麻雀オリジナル連載
全2巻

実在の競技プロをモデルにした麻雀漫画。残念なら先頃打ち切りっぽく終わってしまった。


実在の競技プロをモデルにするという内容に、正直「超危険牌…」と思って見なかったことにしていたのですが、やっぱり危険牌でした。
テーマは決して悪くないとは思うんですが、いかんせん一般性がなさすぎでした。競技プロに興味がある方にとってはおもしろい漫画だと思うし、競技プロのファンの知人(MJ3とかの影響なのか、やたらプロに詳しい)は絶賛していたのですが、個人的にはちょっときつかったですね…。私は露出の多いメジャーな方しかわからないので…。ただ、私にとっては、麻雀漫画の登場人物は実在しないからこそおもしろいということがよくわかりました。言い換えると、実在のプロをモデルにしている漫画を読むなら、普通にリーグ戦なんかを見学に行ったほうがもっとおもしろそうだと感じたということです。なんだかんだ言っても、この世で一番おもしろいのは「現実」そのものですからね。麻雀も、現実に人間がやるから(それを見るから)おもしろい。そして、麻雀漫画はそれとは別の次元にあるからこそおもしろいと思います。


コンセプトは本当にすばらしいと思います。
キンマ連載漫画としてのコンセプトは残念ながら私にはよくわからなかったのですが、作品としてのコンセプトはよくわかります。
私にとっての片山まさゆきは、「作品にはっきりとコンセプトを打ちだして描ける人」なのです。なんというか…自分の趣味や我が儘を捨てて、コンセプトを最重要視し、そのためにものを作ってゆくということは、大学でデザインを専攻していた私の中での理想像でもありました。やっぱり、デザインとしてやらねばならないことと、自分の嗜好とは、必ずしも一致しないわけで、しかしそこで自分の趣味を折るということはとても難しいことなのです。特に学問としてのデザインでは、「社会性」が最重要視されるので、「受け手に、その作品によって何を訴えたいのか」が明確である必要がありました。この点と「何のために、何を、どのように、どう作るか」はものづくりでは最も重要なことだと思いますが、エンターテインメントに属するものづくりでは、それが疎かにされることもママあります。しかし、『ノーマーク爆牌党』以降の片山まさゆき作品は、それがかなり明確に打ちだされているものばかりです。漫画として成功しても失敗しても、コンセプトに沿ってしっかりと描いていけること自体がすごい。憧れます。
短い中でもそれが完全に確立していた『理想雀士ドトッパー』は、本当にすごいと思いいます。ここで言うドトッパーのコンセプトというのは、私の解釈ですが「麻雀に流れはある」ということのほうではなくて、「噦自分自身器は、絶えず自分自身の行動によって証明し続けねばならない」ことの大切さ、ということのほうです。なんとなく雰囲気に流されて描かれているような漫画も多いけれど、マンボははっきりと作者の意図が出ている。それが漫画としていいにしろ悪いにしろ、私はそれはとてもすばらしいことだと思います。また、実際の牌譜を使っているなど、コンセプトが作品自体に直接反映されているところもよかったです。なんだかんだで話もおもしろかったし…。


ところで、10年くらい前の宝島社のムック*1に、尾沢工坊とバビィと片チンが対談している記事が載っていたのですが、尾沢工坊とバビィが「確かに麻雀はクリーンになってきているけど、ちょっと残念な面もあるよね」という旨の発言をしている中、片チンだけが、昔に比べて麻雀のイメージやマナーが向上していることについて、素直に喜ばしいことだ、という発言をしていたんですね。「麻雀のイメージをなんとかよくしたい」と。それを読んだとき、ほんと片チンは純粋に麻雀の地位を向上させて、もっと麻雀のおもしろさを普及させたいんだね…と思いました。
この議論については、実際には、清濁共存派や、尾沢・バビィ派が圧倒的に多くて、片チン派(片チンが本当に麻雀の暗い面を排除したいと思っているかどうかはわからないが。)の人は少ないように思いますが…、そういう中で、自分の中のコンセプトを曲げずにずっと麻雀のイメージアップに貢献するような麻雀漫画を描いていける片山まさゆきはほんとエライです…。
実際、『哭きの竜』や『天牌』みたいな、ヤクザや雀ゴロがたくさん出てくるような漫画には引いてしまう人も私の周囲には多いです。片山まさゆきの漫画は、そういう人にも受け入れてもらえるんじゃないでしょうか。(が、そういう人に限って絵が綺麗なことにこだわりやがるので能條か嶺岸しか読んでもらえないのです。)さらに、私の周囲には、将棋や囲碁にプロが存在することは知っていても、麻雀にプロが存在することを知っている人は皆無に等しいです。こういうまっさらな人にはうってつけですね!(←?)
かく言う私も麻雀漫画に積極的にはまったのは片山まさゆきからなので、相当片チンにはいろいろプラスイメージを刷り込まれています。とりあえず、競技プロはかっこいいというイメージは見事刷り込まれました。


まあ、そんなこんなでかなりの危険牌だったマンボは、残念ながら、通らず!でしたが…。個人的に、読んでいておもしろかったんですけど、ノー爆やオカルティなんかと比べると…、片チンとしては微妙な部類でした…(ア…アレ…?)


でも、片山まさゆきには、競技麻雀の漫画だけではなくて、『ミリオンシャンテンさだめだ!』のごく初期みたいな、普通の生活の中での麻雀おもしろさみたいなのを描いて欲しいな、と思うことがあります。別に片山まさゆきじゃなくてもいいけど、片山まさゆきの描く青春の雰囲気がすごく好きなので、片山まさゆきでそれが見たい。


しかし何より…、マンボの打ち切り決定直後だったか最終回が掲載された頃だったか…、多井隆晴プロが連盟辞められて機構に移られたのには…、あれにはびっくりいたしました…。いろいろな意味で…………。でも、今後のご活躍にも期待しております!!数少ない、顔がわかるプロだから!

*1:宝島文庫版だと『マンガ版 麻雀やろうぜ!』というタイトル