TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 麻雀の未来 どこまでも?

一昨日もご紹介した麻雀サークルS&Cの同人誌『麻雀の未来』ですが、今日は内容についての感想を書きたいと思います。
マンセンゴ.NETの通販ページで中身のサンプルPDFをダウンロードできます。但し通販は既に終了しているようなのでご注意ください。


┃麻雀マンガ三十年史(前編) izumick
麻雀マンガの30年の歴史のうち、黎明期である1970年代中盤から80年代末までに出版された作品を振り返る麻雀マンガ概論。私にはわからない作品が大半でしたが、こういった時間の経過に無為に押しながされていきそうな文化のアーカイブはとても意義あることだと思いました。麻雀マンガは文化じゃねーよという方もいらっしゃるかと思いますが、文化となるかどうかはこういった地道な作業にかかっていると思っています。後編の90年代以降の麻雀マンガ史も期待しています。


┃この麻雀マンガは読んどけ!20冊 izumick
izumickさんの選ぶ麻雀マンガ20選。麻雀マンガは一歩間違うとまじヤバいものを掴まされる危険性が高いジャンルだと思うので、これを参考にするとよろしいかと。ここに紹介されている本の半分程度しか私は読んだ事がないので、これを機会にちょっと古めのものにも手を出してみようかなと思います。


片山まさゆきの世界 モキチ/ヒロタシ/ハンバート/スズキトモユ
片山まさゆきクロニクル麻雀漫画編。『麻雀の未来』の制作が告知されたとき、私が最も読みたいと思ったコンテンツでした。片山まさゆき作品は、読者各個人によってそれぞれの作品の評価が別れそうなので、クロスレビュー形式での評価も見たかったかも。片山まさゆきはグダグダ青春の楽しさと、その中で下らない事に一生懸命取り組むことの価値を描かせたらほんと天下一品だと思います。


┃麻雀学事始 浅見了
麻雀文化情報サイト『麻雀祭都』の管理人である浅見了さんの「私と麻雀」の歴史。浅見さん独特の柔らかくて綺麗な文章で、ご自身の半生を振り返られています。一生勉強しつづけていくことって、やっぱとても素敵なことだと感じさせて頂きました。ところで私は浅見さんがweb上のテキストで自分のことを指すとき、「σ(-_-)」という顔文字を使っているのがものすごく好きです。


┃麻雀の樹予告編 ぴゅー太郎
麻雀におけるGO/STOPの判断のわかれめを論理的に、プログラムとして解析する試み。私は超文系の極北なので、数学的な分析ができる方を見ると脊髄反射で「カッコイイ」と思ってしまいます。そういう人間には「麻雀の扉」などぴゅー太郎さんが今までに書かれたものを読まないと意味がわかりづらいのが難点でしょうか。本編が楽しみです。


┃麻雀は博打かゲームか 福地誠
麻雀ライター福地さんによる、麻雀をゲーム史・賭博史から見た場合の「麻雀は博打かゲームか」論。難しい内容がコンパクトにまとめられており、読みやすかったです。今後この内容がもっと詳しく論じられることを望みます。


┃麻雀はギャンブルゲームではない 草場純
ゲーム研究家の草場氏による「麻雀は博打かゲームか」論。こちらは麻雀のルール上の問題「アガラス問題」から麻雀が博打となりうる理由にアプローチしています。私は金を賭けてゲームする事はないのでギャンブルでなくちゃと言う人の気持ちはわかりかねますが、ここで述べられている「アガラス問題」を麻雀をギャンブルにすることによって無意識に解決する、という考えにはナルホドと思わされました。でも、別に麻雀をギャンブルにしなくてもギャンブルしたければ競馬かパチンコすればという著者の意見のほうが遥かに正論です。


┃麻雀プロ業界とメディアの現状 overdrive
麻雀プロ業界の未来と、それの礎となるであろうメディアとの関係性についての論考。これは麻雀の未来にとって、最も大切な事で緊急性を要する課題だと思います。興味がない人に麻雀に興味を持ってもらうのはもちろん、まず、麻雀に少しでも興味を持った人により一層興味を持ってもらえるには、麻雀を理解してもらえるにはどうしたらよいのか?は重要な課題ですね。これはプロの使命であり、また当然この同人誌自体にも言えることだと思います。片山まさゆきに見事「競技プロはカッコイイ」という妄想?を刷り込まれた私にはとてもおもしろい記事でした。


┃千式麻雀の誕生 ヒロタシ
麻雀のルール自体を工夫することによって「アガラス問題」にアプローチしたヒロタシさんによる千式麻雀についての記事。千式麻雀とは、簡単に書いてしまうと南場がサドンデス形式になるルールの麻雀。ところで、私は昔ヒロタシさんやizumickさんがやっていた『BS麻雀マンガ夜話』が大好きです。こういうのをまたやってほしいな…。


┃ある奇人の疑心 ハンバート
かつて雀鬼流に嵌っていた人間の、昔の自分と今の自分を振り返る手記。ある意味この同人誌の中で最もおもしろかったです。麻雀とは関係なくおもしろい。自分の心の拠り所はなにをするにも重要で、常にそれに疑いを持つべきものだと私も思います。


┃「東京マージャンMagazine」と愉快な仲間たち 塔四郎
麻雀メルマガ「東京マージャンMagazine」の主宰者だった塔四郎さんへのインタビュー記事、当時の裏話。当時の空気を知っている方にはおもしろい記事かと思います。私は残念ながら知らないのでほぼスルーする羽目に…。しかしネット上に「東京マージャンMagazine」のアーカイブがあるようなので、興味がある方は参照されたし。


┃麻雀で喰うには?その体験的考察 福地誠
ギャンブルとしての麻雀の現代史、そしてそれを取り巻くフリー雀荘から高レート・雀荘のメンバーから雀ゴロまで、麻雀を収入源とする人の過去と現在の実態。かなり記事っぽい記事で読みごたえがありました。近代麻雀の連載のほうよりもおもしろいです…。


┃編集後記 いたる
『麻雀の未来』のコンセプトや刊行の意図について書かれています。こういう制作者サイドの考えを表明する場は、内輪だけではなく、外に向かって積極的にプレゼンしてゆく必要があると思います。「最初に意図したのは、麻雀に付随する様々な文化現象に斬り込むことだった」「「麻雀に付随し、そのイメージを形成してきたもの」へ視線を注ぎたい」とありますが、なかなかこういった内容を扱う本は商業ベースでは出ないので、ぜひ今後も『麻雀の未来』にはがんばって頂きたいと思います。←私が読みたいだけ。


┃最後に、私が『麻雀の未来』の今後に期待したいもの
もとい私が読みたいもの。
最もやってほしいのは、「雀ゲーの歴史」です。以前よく『ユーゲー』(現・GAMESIDE)のアンケートでリクエストしていたのですが、結局取り上げて頂けませんでした。それには雀ゲーの記事を書けるだけの知識があるライターさんがいなかったのでしょうね(というかそんなトチ狂ったリクエストを出していたのが私だけだからなのかもしれないが)。そういえば、去年末、近代麻雀の巻頭特集でレトロ雀ゲー特集があったと伺ったような気がします。でもその頃は学業が死ぬほど忙しくてキンマどころじゃなかったんです。読みたかった…。
仁侠映画と麻雀漫画の関係についても興味があります。私は映画には全く詳しくないのですが、80年代の仁侠映画は美学と様式美を重んじる独自の世界観があると思います。『哭きの竜』はそれをド直球で受け継いでいるのではないかと思ってきました。とにかく、私が願っているのは、鈴木清順は『哭きの竜』を撮ってから死んで欲しいということです。




刷った部数は初版・第2版あわせて200部(だったかな?)と伺っているので、実際この本を持っている方は少ないと思います。しかし、この本は多くの方に手に取ってもらいたい内容です。とにかく執筆者の方々が文章力がある方ばかりなので、例え自分に知識がない内容の記事でもとても楽しく読む事ができました。『ユリイカ』が自分が知らないジャンルの特集を組んでいても、毎号興味を持っておもしろく読めるのと同じようなもんだと思います。
在庫が残っているかどうかは私はわからないのですが、今後入手の機会がありましたら、買って損はなしの本だと思います。※現在は2号準備中とのことです。


それでは『麻雀の未来』の今後の御発展と御度胸を願いまして、乾杯!