TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 銀と金

福本伸行 双葉社
アクションピザッツ 1992〜1996 連載
全11巻


┃あらすじ
フリーターの森田鉄雄くんはある日、競馬場で舞い散るハズレ馬券が万札に見えちゃってもう大変。そんな森田くんの前に現われたのは白菜頭の紳士、平井銀次。森田くんはなんだか妙にフレンドリーな銀さんに誘われ、飲みにいってしまいます。オラ、ワクワクしてきたぞ! そこで森田くんは銀さんに日当10万のバイトをやらないかともちかけられるのですが、おまわりとかYAKUZA出現以外にもっとマズイことが待っていそうなのにそれを引き受ける森田くん。そのバイトの正体とは、なんと銀行の不正融資の金・10億を運ぶことっ……! そしてそれはそっくりそのまま、銀次の融資する闇金となる……! そこに集まるのは魑魅魍魎、堕ちるところまで堕ちた者ども……! この物語は、闇のフィクサー・平井銀次と、まだ裏の世界に足を踏み入れたばかりの若者・森田鉄雄の、様々な大勝負の物語である……!



言うなればフリーターのシンデレラストーリー
プリティウーマン・男版
だけど最後はほろ苦い
そんなスウィート漫画。

福本伸行がエロ漫画誌に連載してたんだけどな。

まあ、正直な話、この『銀と金』は麻雀漫画ではありません。
株取引、ポーカー、麻雀、選挙違反、限定空間サバイバル、八百長競馬などのさまざまな勝負の場を舞台としたギャンブル漫画です。話がサクサク進み、しかもひとつひとつのエピソードがしっかりしているので、この漫画がある意味福本伸行の最高傑作なんじゃないかと思います。
しかし物語中盤、銀さん&森田は、巨大な資本を持つ誠京グループの会長の自宅にある裏カジノで、500億近い金を賭けた大勝負、「誠京麻雀」に挑むこととなります。この「誠京麻雀」こそ、特殊ルール麻雀界(あるのかそんなもん)最高位に君臨する、「誠京麻雀」なのです。
ルールはだいたい以下の通り。

誠京麻雀ルール

  • 麻雀としての基本的なルールはごく普通のもの。
  • ツモに金が必要(以下、ツモ料と呼ぶ)。
  • ツモ料は供託。ツモ番が回ってくるたび雀卓の下の貯金箱に入れていく。その局をあがった者が総取り。
  • ツモ料は親の裁定によって決定される。場代としての一定の金額からスタートし、親は自分の番が回ってくる毎にアップできる。親がアップを宣言するたびにツモ料は倍になっていく。
  • ツモ料を払う意志がなくなった子は、「オリ」となる。所持金がツモ料に届かない場合以外での「オリ」も認められる。ただし、通常のアガリ放棄とは異なり、以後全ての牌をツモ切りすることとなる。
  • 2度ヅモを認める。2度ヅモとは、一度ツモった牌が何らかの理由で不要な場合、その牌を山に戻し、次の牌をツモることができるというものである。ただし麻雀のルールに反する為、反則料としてツモ料の3倍の額を供託として支払う。
  • 役満祝儀あり(多分、直撃時のみ)。振り込んだ者は、その時点でのツモ料(1000万円=1.0)×供託金の額を振り込んだ相手に支払う。

ちょっとピンとこないかも知れませんが、このルール、『むこうぶち』のビンタとか青天井精算よりずっと危険なルールです。多分ツモ料5円スタートからでも最終的に危険になります。資金がほぼ無限と、豊富にある会長に対して、銀さん側は500億。銀さんは森田にすべてを賭け、勝負に挑みます。その勝負の顛末は実際に読んで確認して下さい。
でも、これだけは…。
裏ドラや王牌、次のツモは見てはいけない
もしもを確認する資格は誰にもない
正確な言い回しは未確認なので後で訂正しますが、これが誠京麻雀編で最もかっこよかったシーンです。


正直な話、このルール、面前不利じゃね?とか親がおりたら親流れの流局?とか色々思いますが、まあ、銀と金のおもしろいところはそこじゃないからいいんです。銀と金のおもしろさは、ストーリーを説明してわかるようなおもしろさではありません。
そう、それがさっきから何度も書いている スウィート なおもしろさなのです。
純粋で野心家な森田ががんばり、大人で汚れきってる銀さんがそれを見守る。でも、最後、二人は別れてしまう。せつなさ爆発のスウィートさに、もう、読みながら何度も泣きました。特に泣いたのは、梅谷さんが初登場するシーン。
「昔に戻るから…誰にも相手にされない一文なしの自分…人以下だったころ…」
思い出しただけで泣ける。


てか、誠京麻雀の最もおもしろいところは、この特殊ルールや森田のガッツ、銀さんのシブイ作戦もさることながら、誠京グループ会長の蔵前仁の趣味「人間飼育」ですけどね〜