TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 理想雀士ドトッパー

片山まさゆき 講談社
ヤングマガジン 1997 連載
全2巻


┃あらすじ
東京近郊からさらに離れたむりやり通勤圏内なベッドシティ(またの名をど田舎)の高校3年生、柊雹平。彼は同級生の瓦鳩之介や星美・蜜味のようにチャランポランせず、クールな優等生的性格。一方、進学も就職もしないチャランポランの極地の鳩之介は麻雀のプロ試験を受けるため上京するが、その会場で柊と出くわす。柊や美人のうえ麻雀も強い深森遊輝が好成績をおさめる中、筆記はおろか実技も最悪の鳩之介。最後の半荘を前に「高卒で無職……」と落ち込んでいた彼の前に理想雀士と呼ばれるドハデな男が現われた! 鳩之介は彼に半荘1回で120pt叩くアドバイスを求める。理想雀士の答えは「麻雀をエンジョイユアライフ」! このわけのわからん男の正体は!? 理想雀士とは何なのか!? 柊や鳩之介、深森はやがてこの男の導きにより、プロ麻雀界のありかたをめぐる抗争に巻き込まれててゆく。


トップバッターは麻雀漫画界の馬車馬・片山まさゆきの『理想雀士ドトッパー』です。
ヤンマガという雑誌では難しい麻雀漫画だったためか、全2巻の短い作品なんですが、私、片山まさゆき作品の中で、ある意味これが一番好きです。

ストーリーは、高校を卒業する真際の若者・柊雹平と瓦鳩之介が競技麻雀のプロ試験を受けてプロになり、理想雀士と名乗る変な人(しかし三冠王!)と出会って自分を確立していくという話です(多分)。
ま〜、私は長らく理想雀士を女の子だと思いこんでいたので、勝手にちょっとほろ苦い恋の話かと解釈しちゃってたんですけどねー。だってヤンマガだし。リカちゃん人形みたいな顔してるし。最近ちゃんとコミックを買って読んだら、ちゃんと作中で理想雀士は「彼」と言われていて、どう考えても男でしたけどねー。顔とか上目遣いとか指輪とかバーで乾杯とかで騙されましたわー。小松菜プロと柊くんを両天秤にかけてんのかと思ってたし、まじで柊くんはツンデレかと思ってました。当時そんな言葉なかったけど。ンモー


この漫画、ストーリー自体は、麻雀プロの道を歩き始めた若者の成長物語というシンプルなものであり、さらに闘牌自体に凝りまくった麻雀漫画ではなかったのですが、その主題が「競技麻雀とプロとその存在意義」という、近代麻雀に連載してたとしても難しいんじゃないかと言うような内容でした。
「プロとは何か」については『ノーマーク爆牌党』でも何度も触れられたことですが、『理想雀士ドトッパー』では、一般の人々を惹き付ける為にはプロはどうあるべきかということに重要点を置いているように思います。
そもそもさっきから理想雀士理想雀士って言ってますが、別に理想雀士というのは、三冠王・田中が自分で勝手にそう名乗っている、まあ将棋で言うところの竜王とか名人とかみたいな称号です。理想雀士(もとい田中)はタイトル戦でもオープン戦でも常勝し、かつ麻雀界を牽引し、盛り上げていきます。おちゃらけたような言動が多いですが、たまにいきなり本質を突くキッツイ一言を残してくれるクセ者だったりします。そして麻雀の実力もあるのですから、確かに理想雀士と名乗るだけのことはあるでしょう。
「もしいかなる状況でもハコにされて痛みを感じないとしたら それはプロの資格がない」
「ビギナーズラックがなぜ存在するかわかるかい?」
「キミは…相手を選ぶ打ち手になっちゃったってことかー」
特に最後の一つに私はすごく心を揺さぶられ、共感しました。
私は大学でグラフィックデザインを学んでおり、今は一応デザイナーという肩書きの職業なのですが、プロの仕事において、デザインで最も重要なことは「ユーザーのためにデザインをしなくてはいけない」ということ。どれだけかっこよくておしゃれだって、ユーザーの為にならないデザインには全く価値がなく、そしてデザインがよくわかってるような人だけのためにデザインしたものにも一遍の価値もありません。アマチュアや趣味でものを作っている人と決定的に違うのはそこです。自己満足でかっこいいものを作るのはあくまで趣味の範疇にとどめなくてはいけない。その辺の意識が欠けている人が多すぎます。実際はそんな理想的なデザイナー(まさに理想デザイナー)になれる人なんて一握りで、実際自分はド底辺を彷徨ってる部類ですが、それでもこのことだけは絶対に忘れないようにしています。一見かっこいいような自己満足のものなんてアマチュアにでも作れる、勝つことはアマチュアにでもできる。しかしプロはユーザーにとってベストなものは何かを常時考えていなくてはいけない、プロは一般の人を惹き付ける麻雀を打たなければならない。デザイン業界は実は狭く、プロ麻雀の世界も狭い。その中で一般の人々に何をどうアピールするかを考えていかなくてはいけない。プロとはどの業界でも同じなんですね。私は片チンキャラの中でも理想雀士がすごく好きなんですが、このへんが理由なのかなとも思います。


やがて、理想雀士を中心としたプロ団体・ドトッパーと羊飼牧雄率いる本来のプロ団体・JMLが、プロの存在意義や使命についての考え方を巡って対立し、麻雀勝負をすることになります。主人公・柊はこれまでも理想雀士や羊飼、同期の鳩之介や深森の間で揺れ動き、自己を確立出来ずにいるのですが、この勝負で柊は自分はどう歩いていくかに決着を付け、この漫画は終わるんですけど、もっと続けば、ノー爆を超える麻雀漫画の金字塔になってたかもしれないのに〜と思いますね…片山まさゆきの絵が一番可愛い時期の作品ですし、キャラも皆愛らしいし、話も申し分なくおもしろいし…勿体ない…

同時期、片山まさゆき近代麻雀で『ミリオンシャンテンさだめだ!!』を連載しており、これも学生タイトル戦という超ピンポイントな世界を舞台としていたのですが、これの連載が終了した後、近代麻雀で『牌賊!オカルティ』という、理想雀士とさだめだを悪魔合体させたような漫画が始まります。理想雀士が流れ論を重視した闘牌であったのに対し、さだめだはロジック・セオリー重視の闘牌だったんですが、オカルティでは、若手プロが多く参加するタイトル戦を舞台に、オカルトVSデジタルという麻雀理論の対立を描いています。


それにしてもドトッパー、ほんとにおもしろかったのになー。
ヤバゾーとイケテルで説明する流れの概念とか、よかったのに。これがオカルティに引き継がれ、オカルトシステムになったんでしょうが、ドトッパーはなんだか可愛いくてオシャレでスウィートな雰囲気が好きでした。