TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

文楽 2月東京公演『平家女護島』国立劇場小劇場

鬼界が島に鬼はなく、鬼は都にありけるぞや。

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平家女護島。話を自分の中で整理しよく理解するために、あらすじを追いながらメモを書いていこうと思う。

六波羅の段。

六波羅の清盛館では、囚われの身の俊寛の妻・あづまや(配役=吉田一輔)が気を沈ませていた。平相国清盛(吉田幸助)は上臈を踊らせたりと彼女の気を引こうとしていたが彼女は一向に良い顔をせず、鬼界が島へ流された夫を思い泣き伏すばかりだった。やがて清盛の甥・能登守教経(吉田玉佳)が童・菊王丸(吉田玉翔)を従えて現れ、清盛に背かず夫に操を立てよと促すと、あづまやは守り刀を引き抜き自害してしまう。教経は彼女の首を切り落とし「顔が気に入っていたのならこれでいいだろう」と清盛に差し出すが、さしもの入道もこれには顔を背け席を立つ。そこへあづまやが自害したことを知った俊寛の従者・有王丸(吉田玉勢)が侍たちを蹴散らしながらやってきて、菊王丸と力比べになる。二人の力は互角であったが、それを遮った教経の「鬼界が島の主人を忘れ犬死するか、戯け者」という言葉に情けを感じ、有王丸は去ってゆく。

 

ここは人間関係の整理と話についていくので精一杯。能登守教経が平清盛の甥って初めて理解したわ……頭がパーすぎて半年前に『平家物語』読んだばかりなのにまったくわかっとらんかった……。とは言え、上臈たち(吉田玉誉&吉田簑太郎)の踊り、有王丸の捕手の綱を使った殺陣や鮮やかに濃いグリーンの衣装もまばゆい菊王丸との戦いなど、直観的にわかる視覚的見どころも多くて楽しい。

 

 

鬼界が島の段。

平家討滅の陰謀が発覚し、鬼界が島(硫黄島)へ流刑となった俊寛僧都(吉田和生)がヨロヨロと現れ、自らの身の悲哀を語る。気がつくとすぐそばの大岩には平判官康頼(吉田玉志)がしがみついてる。そのさまがあまりにもすごすぎて、俊寛は自分がいつの間にか餓鬼道に堕ちていたのかと勘違いするほど。さらに藪の中からは丹波少将成経(吉田勘彌)が現れる。久方ぶりの再会を喜ぶ三人、成経は顔を赤らめながら夫婦の契りを結んだ島の海士・千鳥(吉田簑助)を二人へ紹介する。この四人が水盃でわいわいやっているところへ、都から赦免船がやってくる。赦免船には、ちゃんとしてるんだろうけど性格が悪いとしか思えない瀬尾太郎(吉田玉也)と、いい人だろうけどクソまじめな丹左衛門(桐竹勘壽)が乗っていて、二人は中宮御産御祈祷のための大赦の書状を持ってきたという。その書状には康頼と成経を赦免するとあるが、俊寛の名は載っていない。俊寛は悲嘆に暮れるが、丹左衛門がさらに小松内府重盛公の書状を持っており、そこには俊寛も赦免すると書かれていた(実際に書いて持たせてくれたのは教経)。三人は喜び船に乗ろうとするが、千鳥を連れて乗ろうとしたところで瀬尾に止められる。成経は千鳥は妻だと説明するが、同道は許されず、瀬尾は通行手形の通り三人だけを船底へ押し込もうとする。千鳥は「鬼界が島に鬼はなく、鬼は都にありけるぞや」と嘆き悲しみ、自害しようとする。瀬尾から妻がすでに亡いことを聞いた俊寛は、妻のいない都へ帰っても栓なきこと、自分のかわりに千鳥を乗せてくれるように頼む。しかし瀬尾はそれをも許さない。それならばと俊寛は瀬尾の差している刀を引き抜き、彼に切り掛かって殺してしまう。俊寛は、この咎により自身はふたたび罪人となり鬼界が島に残るので、かわりに千鳥を赦免船に乗せてほしい、千鳥を入れて三人なら通行手形の筋も通ると丹左衛門に懇願する。康頼と成経、そして千鳥を乗せた船は鬼界が島を離れ、どんどん沖へ出てゆく。自分が乗るのは浮世の船ではなく弘誓の船だと言った俊寛も、いざとなれば浮世の未練捨てがたく、転げ落ちながらも岸壁の大岩へ駆け上がり、遠くなってゆく船をいつまでもいつまでも見送っていた。

 

小幕ではなく、その奥の岩のセットのあいだから俊寛が自然木でつくった杖にすがるようによろめきながら現れると、ぱっと舞台の雰囲気が変わる。シンプルな美術セットだが、ここが都から遠く離れた異界であることがわかる。文章を書くうえの誇張ではなく、本当にここが打ち寄せる波の音と松をすりぬける風の音しか聞こえない、どこか遠くの寂しい島に見えるのが不思議。これはもちろん義太夫のよさもあってのこと。俊寛の人形は古びて変色したかのように顔がすこし黄色っぽくて、腕もほかの人形と違って筋張っていた。

しかし和生さんと玉志さんと勘彌さんが同時に出てきたときはどうしようかと思いましたねえ……。私、和生さんか玉志さんか勘彌さんが出てるときはそこをじ〜っと見てるんですが、きょうはどこを見てたらいいんでしょうね??? 席の関係上、こんなにパラパラ立ってられると誰か一人しか見られないんですけど??? それにしても父や兄のようだとか言いつつこの人ら一緒に生活してたわけじゃないんですね。能だと三人一緒に暮らしてたんじゃなかったっけ。それはともかく三人ともヨロヨロ演技がすごすぎてびびった。とくに冒頭で岩にへばりついている康頼、熱演すぎてやばい。死ぬ気でボルダリングしている人状態。三人の衣装は近くで見ると単なるツギハギでなく、細かい裂けやほつれがたくさん作ってあって、精巧さに驚いた。すだれ状のほつれが見事だった。

そして呼ばれてチョコチョコと現れる、黄緑の着物とそこから覗く赤の襟、腰蓑姿のヒロイン・千鳥。キャーカワイー! 能の『俊寛』には千鳥は登場しないので、初見、正直「誰?」と思った。いや、配役表で「蜑千鳥(鬼界が島) 吉田簑助」というのを見たので存在は知っていたが、「蜑」が読めなくて、蟹の仲間かと思ってましてねぇ……。まあ簑助様がカニ役のわけないとは思ってたんで(当たり前だ)、カニとり娘かなーと思ってましたが、「あま」でしたか……。

何がどうしてそう見えるのかよくわからないのだが、簑助さんの人形はとても可愛い。千鳥も近くで見ると、大きな動きをしているときにも静かにしているときにも、そのなかにかなり繊細で微細な仕草を加えているのがわかる。たぶんそこが可愛さにあらわれているのだろうが、こういう細かい演技は後列に座っているとなかなか見えないので、良い席でじっくり見られるのはありがたい。成経に寄り添っているときばかりか、船に乗る乗らないのところで俊寛の袖の影に隠れてきゅっとしがみついているさまなど、かなり可愛い。まるで「カワイイ」という概念が具現化した存在のようで、こういうふうに言っていいかはわからないが、生身の人間とは思えない。いや、人形は人形なんですけど、生身の人間でいうとどういう人?ということがぜんぜん思いつかない。成経が語る馴れ初めは義太夫らしく艶っぽい(というかオヤジエロギャグ)ものだが、それを忘れさせる清廉さと可憐さ。

赦免船はものすごく大きくて、驚いた。舳先しか舞台に見えていない。船の舳先に逆J字型のなにかがついているので何だろうと思っていたら、フサフサ(タッセル)らしい。パンフレットに載っている過去の舞台写真ではちゃんと本物の大きなタッセルがついていた。

ここからのヒネリが能と異なる部分で、一番おもしろいところ。能だと俊寛はマジで名前が落ちていて取り残されるオチで、助かると期待していたところからの絶望への転落、ぬか喜びがあまりに悲惨すぎておろそしい話なのだが、『平家女護島』だと自らすすんで鬼界が島に残る。『俊寛』もそうだけど、能とか説経節の中世以前に成立している話って人間味のないド悲惨なものが多いが、『平家女護島』では悲しみそのものはあるのだが、それを人間味の方向というべきか、違う方向にいかせていた。現世への未練は断ち切ったというけれど、それでもさすがに船が出ていくのを見るといてもたってもいられない俊寛の人間らしさ。クライマックスで俊寛が駆け上がる大きな岩が印象的。文楽の人形はちっちゃいので、このセットの大岩がものすごく大きな岸壁に見える。幕が閉まる直前はこの岩が半回転していた(廻り舞台を使っている?)。このラストシーン、黒衣ちゃんが波の模様の布を手すりにかけるのを失敗してて、下手側の子はそうそうに諦めたんだけど、上手側の子が最後まで一生懸命かけようとしていたのが印象的だった(そこ?)。最後に出てくる遠見の船は可愛かった。

そういえば、都からの赦免使ふたりが島に降り立ったとき、お付きのツメ人形がちいさな床几を出していて、ふたりがそこにチョコンと座ったので驚いた。もちろん足遣いの邪魔になるので床几はかたちだけですぐ下げられてしまったいたが……、いままで、文楽の人形は屋外でも「座っている」が、いったいどこに座っているのかと思っていたが、やっぱり床几に座っていたんですな。

  


舟路の道行より敷名の浦の段。

成経らを乗せた赦免船は鬼界が島を離れ、備後敷名の浦へたどり着く。そこでは有王丸が主・俊寛の帰りを今や遅しと待ち構えていたが、赦免船に俊寛の姿がないことを知り落胆する。これまでと自害しようとする有王丸だったが、千鳥にとどめられ、思い直す。そして、一行からの頼みで主人の養娘である彼女を預かることに。そうこうしているうちに清盛と後白河法皇を乗せた厳島神社ご参詣の船が敷名の浦を通りかかる。清盛は後白河法皇を「前からうざいと思ってたんだよね〜!」みたいな感じで船から海へ投げ落とすが、海に慣れた千鳥(吉田簑紫郎)が咄嗟に海へ飛び込み、法皇を海中から助け出す。ところがそれを見ていた清盛が千鳥に熊手を打ち込み、頭を踏み砕いて殺してしまう。千鳥は恨みの言葉を吐きながら死に、千鳥の瞋恚の業火に取り憑かれた清盛はその執念に恐れをなしてあわてて都へ帰ってゆく。

 

太夫さんがまったく声揃っていなかった。滅多に出ない段らしいのと、かつ私が行ったのは2日目なんで仕方ないのかもしれないが、特に人形が出ていない幕を張っているだけの状態のときに揃ってないと、浄瑠璃そのものより揃ってないこと自体に気がいく。それとも揃える気がないんですかね。というか、言ったら悪いけど、あきらかに揃える気ぃないときありませんかあの人たち。三味線もはじめのほう揃っていなかったが、だんだんなんとなく揃ってきていた。がんばって!と思った。あの人ら絶対全員が全員「おれが一番イケてる」と思っているだろうし、個性とか芸の方向性が結構違うから仕方ない部分はあるんだろうな〜、とは思う。

それはともかく千鳥が芝居ながら着物姿のまま海へ飛び込んだのは驚き。千鳥は海女なので着物の裾を普通の女の人形より上げていて、足が吊ってあるのがわかった。千鳥はわりとフワフワと泳いでいた。水中で着物が揺れているイメージなのかな。あと、千鳥は「蜑訛り(薩摩訛り)」という設定らしいが、どこがどう訛っているのかはよくわからなかった。前段の簑助様が実は方言萌えキャラだったということだけは理解した。

簑紫郎さんの千鳥。簑紫郎さんのインスタ、人形の写真を見たくてフォローしているのだが(簑助様の人形の写真をアップしてくれることがある)、絵文字たっぷりや自撮りはまだいいんだけど、時々虫のクソどアップ🐜やみんなで温泉に入りました♨️的な写真が混入してきてびびる。勘十郎様の暴走を止められるのは簑紫郎さんだけと思っていたが、これではもう誰も止められないと思った。

 

 

鬼界が島に鬼はなく〜というフレーズは聞いたことがあったけど、この作品に出てくるセリフだったのか。

ところでこの『平家女護島』、これだけでは話がまったくわからないので、全段だとどういう話になるのか我が愛読書・先代吉田玉男文楽藝話』で調べたところ、「常盤御前が牛若丸に女装させて通行人を色仕掛けで引き込み源氏再興を企てるという設定に、平宗清父娘の悲劇が絡む」と書いてあって、余計に意味がわからなくなった。俊寛の話はそこにどう関係あるんでしょうか……。

2月は東京でもチケットが取りやすいということで、『平家女護島』は最終週も取った。2回目は初回ではよく理解できていなかった部分をしっかり観て聴いて、新しく気づいたことや改めて理解できたことなどは、ここに書き足したい。

 

2017.2.27追記、鑑賞2回目感想。

結論としては2回観てよかった。1回目は人形目当てに絞った前列席を取ったので、俊寛たちがヤイノヤイノやっている輪に自分も混じっているかのような錯覚を覚えたが、2回目は浄瑠璃をゆっくり聴こうと、床の直線上にくるまんなかくらいの席にした。引いて観ることになるので客観性が生まれて物語全体を把握しやすく、また、人形の大きな動きも見やすく、これはこれでよかった。

まず「六波羅の段」、これは初見時まじで意味わからなかったので2回目観て本当によかった。初回時は入場時にロビーにいたくろごちゃんに夢中になり、開演前にあらすじを読めなかったので……。この段は教経が何者なのかわからずに観るものではないと思った。

「鬼界が島の段」、今回は康頼と成経をじっと見てみた。冒頭、『八甲田山』でこんなシーンあったよね〜って感じの這いずり回りがやばすぎてびびる康頼だが、よく観察していたら、その後も人一倍盛り上がっていた。成経が千鳥との馴れ初めを語るくだり、俊寛はときどき「ほほー」みたいに手をあげたりするのだが、康頼はものすごい前傾姿勢で成経を見つめ、興味津々に聴いている。いや、人形ってもともとやや前傾してますけど、「まじで!?」って感じで真顔で(人形だから当たり前)聴いているのがなんかおもしろくて……。人形の目線は成経にいっているのだが、玉志さん(康頼役)はぴくりとも動かず、勘彌さん(成経役)の背後をじ〜っと見ていらっしゃった。何をご覧になっていたのだろう。康頼は赦免状に俊寛の名前がないとわかったときも、「な、なんですとー!?」と言わんばかりに結構びっくりしてぷるぷるしていた。貴公子風に見えて、実はキモオタなのかもしれない。康頼はドラマに関係のない役だが、その分、わりと盛り上がっているのだなと思った。それにつけてもあの人ら、久々に再会したしょっぱなから恋バナはじまるあたり、アラサー女子会のようでのんきではある。成経はあまりウロウロはせずちょっと品があって、あんな辺鄙な島で何年も暮らしていても貴公子っぷりが抜けていない感じで、姫騎士な感じで良い(勘彌さん自身のイメージによるもの?)。

「舟路の道行より敷名の浦の段」。身もふたもないことを言うが、千鳥はやっぱり鬼界が島のほうがかわいい。鬼界が島の千鳥は、棒を振り回しても、石を投げても、落ちるがなってくらい船から身を乗り出してジタバタしても、すっごくかわいい。ぶっちゃけいわゆるブリッコなのだが、現世のものとは思えないほどに可憐だからすべて許される。体が小さく、華奢に見えるのが大きい。守ってあげたい感がある。単体での演技とあわせてほかの人形とのからみがうまいんだろう。敷名の浦では泳ぐという一番大きいアクションをしないといけないので、そういった意味での可憐さは出しにくいのかもしれない。

浄瑠璃……、太夫の声、三味線の音は、やはり床の直線上にくる席のほうが聞こえよい。字幕を見ながらゆったりと聴くことができるし、床の様子も見られるし。しかし舟路の道行のとこ、揃っている日といない日があるのだろうが、もうちょっと頑張って揃えるようにしてくれよと思った。個々の方が頑張っておられるのはわかるし、あんまりネガティブなことは書きたくないが、正直あれでは舟路の道行〜は上演しないほうが鬼界が島の余韻を楽しめると思ってしまう。咲甫さんは今回3部とも出演されて、本当にがんばっておられた。

 

 

 

今回は昼食を食堂で食べた。開演前に1Fの階段上り口で予約。国立劇場のウェブサイトに載っておらず要問合になっているあぜくら会の食堂優待だが、受付の方に質問したところ、2,000円以上のメニューに適用されるようだ。ケチって一番安いお弁当にしたので優待を受けられず、適用時の割引率は不明。

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一番安い! 梅弁当(1,600円)! こまごましたおかずが一口分ずつ入っている。歌舞伎公演とかぶっていなかったせいか食堂内は人が少なく、広めのテーブルで食べられた。少なくとも味も接客も文楽劇場よりはいい。分量は多くないけど、休憩時間の30分で食べきるにはけっこうギリギリだった。これよりランクが上のお弁当は私は分量的に食べきれないかな。


 
 
• 『平家女護島(へいけにょごのしま)』六波羅の段、鬼界が島の段、舟路の道行より敷名の浦の段
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2016/21039.html

国立劇場近くのおすすめランチ店 8軒 〜半蔵門観劇お食事頂上作戦篇〜

2月の文楽東京公演は3部制ということで、ご観劇前後にお食事を劇場外で召し上がる方も多いと思います。しかし国立劇場近辺に土地勘のない方は、半蔵門では食べるところがないと思われる方も多いのでは。

おっしゃる通りその通り。半蔵門には皇居と最高裁国立劇場しかありません。そこで、半蔵門界隈のランチに一家言ある(?)私が、国立劇場近く、とくに半蔵門駅から国立劇場までの間にあるおすすめのランチ店8軒を半蔵門駅から/国立劇場までの所要時間とあわせてご紹介します。

 

 

┃ 1. やくしま

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名前通り、夜は屋久島直送品を使った料理を提供する和食店で、ランチタイムは和定食を出している。

落ち着いた店内で、丁寧に調理され盛り付けられた健康的な料理をゆっくり味わえるのがこの店の良いところ。ただのヘルシーではなく、品質のよい健康的な定食なので、きちんと食べたい男性客はもちろん、体に良い食事をとりたい女性客も多い。板前さんがたくさんおられるので出てくるのも早く、店員さんの接客も気持ち良い。

メニューも一番人気の日替わりをはじめ、焼き魚や煮魚、鳥唐揚げ、肉じゃが、刺身などのベーシックな定食から、牛アボカド丼、屋久島トビウオ丼などのちょっと変わったものまで様々。定食の場合はご飯、味噌汁、小鉢、漬物等の箸休め2種がつく。また、大抵メインおかずに生野菜サラダが一緒に盛られているので、野菜を無理なくたっぷり摂取できるのも良い。ちなみに日替わり定食に具体的に何が出るかというと、キムチ鍋+プチコロッケなど、メインにちょっとしたおかずがつくことが多く、結構がっつり食べられる。

この店、おいしすぎてランチタイムは近隣勤務の会社員が集結するので、12時台〜1時過ぎまでは結構混んでおり、1時半以降が穴場。広めのグループ席、御簾で仕切った個室風席あり。カウンター席があるので、おひとりでも気軽に入店可。国立劇場行き帰りらしき方もよくお見かけする信頼できる店。 

 

 

┃ 2. 巨牛荘

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焼肉系韓国料理の有名店。ランチではプルコギ、クッパ、ビビンバのほかステーキなどを出している。

おすすめは旨味たっぷりスープのクッパ。ダシの風味を大切にした締まりがありつつも優しめの味で食べやすく、スープもすべていただける。調味料付きなので、辛いのが好きな人は唐辛子粉を入れて味を調節可能。主食は「ごはん」と「うどん」から選べる。

この店、以前は千鳥ヶ淵付近にあり、かなりの床面積を持つ人気店だったが、最近半蔵門駅国立劇場出口目の前へ移転してきてカジュアルダウン、店内が狭くなった。人気のわりに席数が少ないので、さっと食べてさっと劇場へ向かいたいときに良い。

 

 

┃ 3. ガンジス

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衆議院御用達」と謎の張り紙がしてある、黄色い外壁塗装もまばゆいインドカレー店。

ここのカレーはスパイシーでコクある風味が特徴。私が好きなのは辛口チキンと日替わり。日替わりは独創的で「かぼちゃとチーズのキーマカレー」など、良い意味でインドカレーにとらわれないバラエティ感がある。春季なら春野菜を使ってみたりと、ちょっと創作料理風。それと、インドカレーだと調理が素朴なところも多いが、ここはどれも丁寧。前述のかぼちゃとチーズのキーマカレーも、かぼちゃが小粒に切ってあるのに煮崩れていなかったり。

この店で一番勧めたいのは、ランチに無料でついてくるドリンクで「マンゴーラッシー」を選ぶこと。これがコックリ濃厚で旨い! なんでもヨーグルト成分は明治の機能性ヨーグルト・プロビオを使っているらしい。ヨーグルトとマンゴーの配合も絶妙で、デザート代わりにもなるほど。これだけをテイクアウトで売ってほしいくらいだ。

写真はレディースランチで、好きなカレー2種、ナン、ライス、タンドリーチキン、サラダ、ドリンク、マンゴープリンがついて999円。ナンとライスはもちろんおかわり自由。女子はみんなこれ注文すべし! 男子が注文できるかは店員さんに聞いてみて!

※ちなみに今回記事を書くにあたり「衆議院御用達」の意味を調べてみたところ、なんでも国会議事堂(衆議院)内に系列店が喫茶店形式で入っていて、そこでココと同じカレーを出しているようです。

 

 

┃ 4. 麹町カフェ

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半蔵門駅国立劇場側出口の目の前にある大型カフェ。

カフェと言いつつ食事メニューが充実した店で、オーガニックフードを取り扱う。メニューは軽食をオシャレっぽく調理したいわゆる「カフェめし」中心だが、あなどるなかれ、メインからちょっとした付け合わせの野菜に至るまでひとつひとつの料理が丁寧に作られており、しかもボリュームたっぷりで満足感は◎。ランチメニューはあまりに遅い時間だと品切れすることがあるが、その場合は代替メニューに差し替えてくれるのが嬉しい。写真はメインのキッシュがなくなったので、タンドリーチキンのサンドイッチに差し替えてもらった日。むしろこっちのほうがええやんけ。

ランチメニューにつく付け合わせのひとくちパンはおかわり自由のほか、手作りのプチデザート付き。ランチドリンクは別途オーダーだが(200円くらいだった気が)、ドリンクも頼んですこしゆっくりするのがおすすめ。

店内はかなり床面積が広く、食事にお茶にゆったりでき、広めのグループ席(ソファ)もある。にぎやかな店なので、静かに落ち着いた会話をとはいかないが、キャーキャーやりたいときはあえてここを選びたい、半蔵門には少ない若干チャラついた(?)店。 

 

 

┃ 5. おかめ

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国立劇場表側(内堀通り沿い側)にある甘味屋。

おはぎ、あんみつ、かき氷などの甘味がメインだが、実はうどん、お雑煮、お茶漬けなどの食事メニューが充実。この地味さ、半蔵門には他になくて貴重な存在。あんまり味の濃いものとかがっつりしたものはちょっと、というときはここでさらっと。

写真の「甘辛弁当」はおでん、茶めしおにぎりをメインに、おはぎがついた一品。おでんと茶めしおにぎりの落ち着いた味に癒される。私はとろけるはんぺんが好み。おはぎはこしあん・きなこ等のオーソドックスなもののほか季節限定品も選べて2月現在は桜味を展開中(写真中央のピンク色の物体)。この桜おはぎ、要するに桜餅(東京で言う道明寺)をおはぎ化したものだが、見た目に反して甘くなく、食べやすい。そしてサイズが妙に大きく、普通のおはぎ2個分はありそう。おにぎりよりでかいぜ。おでんとおにぎりだけならかなり量少なめだけど、このおはぎで程よく腹八分目に。

端正な雰囲気の店内はテーブル同士の間隔がかなり広めの余裕あるレイアウト。テーブル自体も広いので、静かにゆったり食事や甘味を味わえる。一応書いておくと、味レベル的には劇場内のレストランに近いかな。めちゃウマの名店とかではなく、雰囲気を楽しむ店。

※食事メニューはWEBサイトに掲載なし。一例としては、おぞうに770円、豚うどん830円、あべ川もち760円、さけ茶漬け810円、おにぎり吸物付810円、茶めしおでん910円など。季節メニューあり。ご参考まで。

 

 

┃ 6. プティフ・ア・ラ・カンパーニュ

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半蔵門駅からは国立劇場と逆の出口(番町方面)になるので国立劇場との行き来が少々遠いのだが、それでも是非訪問してもらいたい半蔵門最高の名店。

欧風カレーの専門店で、種類はビーフ・ポーク・チキン・シーフードなど多様。私のおすすめはポーク。カレーソースとは別に揚げ焼きされたポークにワインのような風味がかすかについていて、いかにも高級欧風カレーというお味(貧乏人の感性)。柔らかなチキンも王道のおいしさ。芳醇で深いコクのあるカレーソースは本当にすばらしく、欧風カレーらしいスパイシーさと濃厚さに加え、フルーツのような甘味がほのかに香るのがこの店の特徴。辛口で注文した場合でも、辛みが浮かずよりコクを増すようなまろやかさがある。写真のように小さなジャガイモ2個付き。

個人的にはこの店、欧風カレー店の最高峰で(料理自体のほか、接客・店内雰囲気を加算すると神保町ボンディより上)、別に半蔵門に用事がなくともこのカレーを食べるために半蔵門へ行きたいくらい好き。

終日通し営業なので第二部終演後、第三部開演前・終演後でも食事を楽しめて便利。実際、しばしば国立劇場歌舞伎や国立演芸場終わりのお客さんの姿を見かける。ややアンダーな照明の隠れ家風の店内で落ち着くので、観劇後に少しゆっくり話ができるのが良い。

 

 

┃ 7. ドーカン

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近隣の会員制洋菓子店・村上開新堂の系列店だが、ここは終日予約等不要・だれでも利用可の一般向けのカジュアル店舗。

外観からはイートイン付きの老舗洋菓子店に見えるが、本業は食事メニューだそうで、ランチ・ディナータイムには洋食メニューを提供。その洋食がいかにも昔ながらの味で楽しい。豚ブロックをケチャップ風味に煮込んでグリーンピースを添えたポーク煮ライスは懐かしい美味しさ。豚肉はスプーンで崩れるほどやわらかく、やや強いトマトの酸味が効いている。これに生姜味にクタクタに煮込んだ野菜の和風スープ(一例。スープは日替わり)がついてきて、まるで昭和の金持ちの奥様が料理教室で習ってきたメニューをホームパーティで振舞っているようなお献立。もしくは昭和の給食。食後のコーヒーについてくる角砂糖が個装の輸入品だったり、プチデザートのガトーショコラがよくあるしっとりタイプではなく、焼菓子のようにカリカリだったりするセンスもいかす。写真は具だくさんスープセットで、メイン料理にたっぷりのスープ、飲み物、プチデザート付きで1,350円。

高級店の系列店のせいか、店員さんの接客が値段や店の雰囲気を超える丁寧さなのも不思議時空を増幅する。昭和の古き良きお店感を満喫したいときに訪問したいお店。

 

 

┃ 8. 朝霞

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‪中華ならここ。最近の中華料理らしいカジュアルな店。

麻婆豆腐や鶏肉のカシューナッツ炒め、高菜炒飯など、様々なメニューが日替わりで楽しめる普通の定食もおいしいが、辛いもの好きの方はぜひ刀削麺を。モチモチ麺と粗挽肉にからむ山椒が爽やかな麻辣、風味豊かなスープの坦々ともにパンチがあって大満足。味はしっかりしているが、辛口すぎず食べやすい。オプションとして、ミニサイズ刀削麺+日替わり定食のミニサイズ丼やチャーハンミニサイズとのセットもあり。この店、全体的にものすごく量が多いので、セットで頼むとミニサイズとか言ってもすさまじいボリュームとなる。観劇前は鬼門かも(上演中スヤる)。また、すべてのメニューに杏仁豆腐付き。

店内こぎれいで広いが、ザックリしたおおらかな店なので、さっともゆっくりも可。刀削麺をオーダーすると紙エプロンをもらえるので、お召し物が気になるけどがっつり食いたい乙女も安心。

民俗芸能公演 淡路人形芝居『賤ヶ嶽七本槍』淡路人形座 国立劇場小劇場

国立劇場主催の民俗芸能公演。民俗芸能の人形芝居って観てみたいけど、なかなか遠方までは行けぬと思っていたら、国立劇場の民俗芸能公演に入っていたのでチケットを取った。このような上演が一度しかない公演も、あぜくら会なら確実にチケットを確保できる。入ってよかった、あぜくら会!(とは言っても発売日の昼過ぎにその日が発売日だったことを思い出して取ったので、席はあぜくら会とは思えないヤバイ後列でした)

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淡路人形芝居は文楽と同じく人形浄瑠璃で、今回上演の『賤ヶ嶽七本槍(しずがたけしちほんやり)』は上方での伝承が途絶え、現在は淡路にのみ伝わる演目だそうだ。小田春永・武智光秀の没後を舞台とした、柴田勝家と真柴久吉の小田家の家督相続を巡る争いの話。

 

「清光尼庵室の段」。小田春永の長男に長女・蘭の方を輿入れさせ、久吉方の家督相続の候補者である嫡孫・三法師をもうけさせていた足利政左衛門(前田利家のこと)の一家を描く部分。

幕が開くと黒衣の口上から始まり、舞台にならぶ人形は黒衣の三人遣い、黒の着付に肩衣をつけた太夫・三味線が出語り床に座っている(床は回さない)。しかし、太夫・三味線が女性だったり、人形のかしらが大きくて、頭身がちょっとマンガチックだったりと、文楽とは所々が異なっている。人形は構え方が若干違うらしくて、それと関係があるのかはわからないが、ツメ人形が若干前傾姿勢。文楽公演と雰囲気が異なり、ちょっと緊張(私が)。

政左衛門は久吉から、蘭の方の養父が小田家転覆を図ったため、三法師の跡目相続の障害とならぬよう蘭の方の首を差し出せと迫られていた。しかし実は蘭の方は政左衛門の実子ではなく、義理ある人の子であった。一方、政左衛門の次女・深雪は大徳寺焼香の折に出会った勝家の子息・勝久と恋に落ちるが、叶わぬ恋を悲観して庵にこもり清光尼と名乗っていた。この清光尼の庵室に、父・政左衛門が訪ねてくる。政左衛門は彼方で始まった真柴と柴田の合戦を見物すると言い、深雪の庵に遠眼鏡(望遠鏡)を据えさせた。そして髢*1を深雪に渡し、遊びはもう止して父の役に立つべく婿を取れ、還俗せよと促すが、深雪はそれを拒否する。

そうこうしているうちに久吉来訪の知らせが届き、政左衛門は三法師を伴った久吉と面会する。久吉は政左衛門に改めて蘭の方の首を催促しに訪れたのだった。政左衛門はしばらくここで待っていて欲しいと久吉に告げる。

政左衛門が庵室から帰った後、姫のお付きの三人の腰元たちは押し合いへし合い、遠眼鏡ではるか遠くのイケメンを見たり、大太刀を帯びた武将を見て斬られた〜いなどとキャーキャー騒いでいるが、そのうち合戦をしている武者の中に姫の想い人・勝久を見つける。腰元らに遠眼鏡の前へ引き出された黒袈裟姿の姫が覗いてみると、それはまさしく勝久であった。姫は捨てていたはずの俗世を思い切れなくなり、赤い振袖姿に着替え、簪をさして還俗してしまう。そこに政左衛門がふたたび現れ、姫に蘭の方の身代わりに死んでくれと頼むが、姫は「勝久を思い切れない、ここでは死ねない」と拒否する。政左衛門は、勝久はまもなく討死する運命、所詮この世で添えぬなら冥途で添えよと姫に自害を迫る。そのとき遠方から法螺貝の音が聞こえ、姫は遠眼鏡を覗き込む。すると遠眼鏡の先には数多の軍卒たちと戦う勝久の姿があった。やがて、深雪のもとに勝久討死の報が届く。悲しみに暮れる深雪は、姉の身代わりに死ぬことを決意し、父・政左衛門に首を討たれる。勝久は深雪の首を白布で包み、奥の間で待っていた久吉に渡す。政左衛門は久吉が偽の三法師を立てて奸計を巡らせているのではないかと疑うが、久吉は腕に抱いていた偽の三法師––正体は久吉の実子・捨千代––の首を討つことで誠意を示す。久吉の真意を知った政左衛門は、隠匿していた本物の三法師を黒袈裟姿に扮した蘭の方とともに久吉に引き渡した。

深雪姫が法螺貝の音を聞いて遠眼鏡を覗く場面では、その視線の先にあたる、まさに遠眼鏡の向いている客席後方扉からツメ人形軍団、続けてきらびやかな若武者姿の勝久の人形が現れ、客席通路で合戦を繰り広げる演出にびっくり!  だから遠眼鏡が客席通路に向けて設置されていたのか。かなりの後方席だったが、この演出のおかげで人形を間近に見ることができた。ちなみに法螺貝の音は本当に客席後方で演奏。いきなり背後でブオ〜〜っと大きな音が鳴るので驚く。下手の御簾内にいたお囃子の人がいつのまにか客席後方に移動してきていて、後方ののれんの奥(?)で演奏していた。

ところで姫が赤い振り袖に着替えるところで気づいたのだが、なんか、姫役の人形のフォルムが見慣れたのと違う。特に人形が座っているとき。なんだか全体がシュッとしている。よく見ると振袖が広がらずにそのまままっすぐ下に落ちていて、人間が普通に着たときのような感じ。文楽のように全体フォルムが △ にならず、凸 の形になっていた。

また、この段は太夫・三味線が3組交代したのだが、最後の切の太夫のみ男性で、他は女性だった。人形芝居には音楽部分が義太夫節でないものもあるけど、淡路は義太夫節。女性の義太夫は人形芝居では(あるいは生では)初めて聴いたが、思っていたほど違和感はなかった。後ろから見ていると、床をガン見している人は結構いたが……。切の男性の太夫さんは、(男性だから比較しやすいんですけど)かなり文楽に近い、だが文楽よりもうちょっと清廉な感じだった。でもこれはその太夫さんが文楽時空よりお若いからかも。文楽でもお若い太夫さんは清楚な感じなので…… 。この方だけ、割と明確な語り分けをされていた。

あとは久吉と政左衛門が面会する場面で、庭の池からぴょんぴょん現れるかえるちゃんが可愛かった。

 

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「真柴久吉帰国行列の段」。ここはまさに娯楽を見せる段。ツメ人形が舞台上手から下手へひたすら行列していくだけ。しかもちゃんと大名行列みたいな役割分担があるので、次々違う格好の人形が現れる。ときには2人の毛槍持ちが毛槍を空中に投げて交換したり、いうことをきかない軍馬がいて手綱を持っている人形がぐいぐい引っ張ったり。無限にわき出てくるツメ人形にめっちゃ笑った。

そういえば、文楽では軍馬はブヒヒンって感じのリアルな馬だが、淡路ではわりとアバウトな顔の馬というか、片山まさゆきが描く馬が実写化したようなおそろしくシンプルなお顔の馬だった。

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まじこんな感じ。しかもみんなちゃんとたてがみの形が違っていて、角刈りのヤツとか前髪流してるヤツとかいて、笑いそうになった。後ろと隣の席の人は爆笑していた。

 

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「七勇士勢揃いの段」。

賤ヶ嶽の戦いで功名を立てた久吉の7人の勇士(武将)たちが槍をたずさえ馬に乗って久吉のものへ集ってくる。そのうち、加藤正清は指物(背中にさす旗)を忘れたと言い出し、そのへんに生えていた笹ではいけないかと久吉に尋ねるも、生の青々とした笹は古来よりの習わしで許されない。そうこうしているうちに、柴田方の武将・山路将監と佐久間玄蕃が現れた。清正は次々と軍卒たちをなぎ倒し、その首を笹に七夕飾り状にくくりつけて指物とした。さらに山路将監を倒した正清に、久吉はついに生笹の指物を許す。正清は玄蕃をも討ち果たし、久吉らは勝鬨をあげて本陣へ引き上げてゆく。

冒頭、 久吉とその七人の部下たちが馬に乗って舞台に居並ぶ場面が圧巻。人形遣いが人形1体につき馬含め4人×8体で32人なので、文楽でもなかなかできなさそう。

加藤正清が軍卒たちを斬り捨てていく場面は、軍卒のツメ人形一人一人の殺し方が違っていて楽しませてくれる(というと物騒だが)。次々と遊郭の使用人や遊女、客たちを斬り殺してゆく『伊勢音頭恋寝刃』でもそうだったけど、いちいち芸が細かい! 首が飛んだり、かしらが文楽でいうところの梨割で頭を縦まっぷたつにされてもおメメをパチクリさせていたり、さいごの一人はぴゅーっと逃げ出したり。山路将監と戦う場面も遠見の人形(てのひらサイズのかなりプチなやつ)が大岩の上でキャイキャイやったりなどしてかわいらしく、楽しい。二人の動きは文楽でいうところの猿回しの猿だった。

加藤正清の足の方、なんだかきわだってうまかった。他の人形は足取りが少々おぼつかないのがいたり、立ち止まったときの足の形がうまく決まっていなかったりしたのだが、加藤正清だけはいかにも立役っぽい、しっかりした足取りでノシノシ歩いていた。加藤正清のみ派手な殺陣の場面があるので、ベテランの方がついていたのかしら。

 

 

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全体的に、民俗芸能と聞いてイメージする素朴な人形芝居ではなく、かなり洗練されていると感じた。さすが常設劇場のある一座。今回は人形に人数のいる演目なので、人形遣いが足りなくて地元の人などに出てもらったりしているようだ。

人形のかしらの大きさはしばらくすると気にならなくなった。印象としてはむかしNHKでやっていた人形劇に頭身が近いので、ある意味なじみがあるからかも。でも実際やっぱりデカイ。顔の大きさは全員武将なみ。席がセンターブロックうしろから3列目で、文楽公演なら人形の顔はまず見えない後列だったのだが、そこからでも顔がある程度見えたので……。あんだけかしらがデカイと、人形、メチャ重そう……。逆にツメ人形は文楽よりこぶりな印象だった。

しかし、かしらの大きさよりも、人形の動きが文楽と異なるのが一番目を引く。淡路は人形の振りが大きいと聞いていたが、むしろ文楽のほうが大きく感じた。かしらが大きいので体の振りがこぶりに見えるからか、立役に関しては文楽のほうが人形が大きいのか(これはたぶん本当にそう)、操演技術の系統の違いなのか。全体的に文楽ほどピクサージブリのような予備動作を伴うアニメーション的な大振りがなく、わりと人間の普通の動きに近い。あんまり比べても意味がないのだけど、立役でいうと、文楽では武将のような大型の人形は立ち上がるとき、見得を切るとき、出のときなどに伸びあがるような大きさを強調する動作をするが、そういった誇張演技をしない。女の人形も、文楽だと普段はチョコマカしていてもクドキや単独演技だと大きな動きをするが、こちらだと全体的におとなしめ。うしろぶりにあたる演技もあったが、それが浮いて見えるくらい。ツメ人形はわりと戯画的にワイワイしていたが、三人遣いの人形はみな楚々とした印象で、あまり華美な方向にいかない芸のように思われた。ただ、今回の演目は派手な演目ではないので、演技の振り幅はものにもよるのかもしれない。

また、逆説的にだが、人形の見え方にはやはり太夫・三味線が大きく影響するのだなということがよくわかった。率直に言うと、ご出演の太夫・三味線の方の技量に結構ばらつきがあって、床によって人形が大きく見えたりそうでなかったりするのだ。そういう意味ではある意味素朴とも言える。三味線については同じ劇場で同じようなフレーズを演奏しても、ここまで聞こえ方に幅が出るのだなと思わされる部分もあった。

客はある程度文楽から流れてきているだろうなと思っていたが、客層は若干異なるようで、文楽公演より平均年齢が結構高い印象。ロビーや客席の会話を聞いていると、三人遣いに驚いている人がいたりして、文楽を見たことがない人も多いようだった。

休憩時間には淡路人形座のオリジナルお土産売店と、民俗芸能資料の書籍のミニ売店がロビーに設置されていた。私は淡路人形座のほうでレトロなパッケージの絵葉書セットを購入。入っている絵葉書の写真を見ると、『絵本太功記』『本朝廿四孝』『壺坂観音霊験記』『伊達娘恋緋鹿子』など文楽にもある外題が入っていた。でもやっぱり文楽と同じではなく、人形のフォルムなどが違うので、なんだか不思議な印象。とくに『本朝廿四孝』奥庭狐火の段のきつねがアルパカみたいにすんごいモフってるのが可愛かった。

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  • 賤ヶ嶽七本槍(しずがたけしちほんやり):清光尼庵室の段(せいこうにあんじつのだん)/真柴久吉帰国行列の段(ましばひさよしきこくぎょうれつのだん)/七勇士勢揃の段(しちゆうしせいぞろいのだん)

*1:かもじ。髪を結う際に用いる付け毛